第10話:両親の苦悩・第三者視点
「おまえは、ほんとうに困った奴だ、お前のせいで私の計画はだいなしだぞ。
これで皇国に仕える事はできなくなってしまった。
まあ、私もターニャの父だ、お前の気持ちは分からぬではないが、それでも、領主として家臣領民を護る責任があるのだ」
ボドワンとターニャの父親、サザン辺境伯ルマンド卿はほとほと困っていた。
父親としては、ボドワンのやった事は十分理解できる。
だが、領主としては、これからの事を考えると頭が痛い。
「申し訳ないとは思っておりますが、我慢できなかったのです。
私のできる事なら何でもいたしますので、これからの事も見逃してください」
サザン辺境伯は必死に溜息と怒声の両方を我慢した。
既にやってしまった事を、なかった事にはできない。
もうフレビオ王家とザリフト皇国との関係改善は不可能だ。
両国と敵対する以上、ボドワンの人間離れした武勇は絶対に欠かせない。
だが、なんの罰も与えないわけにもいかない。
それでは家臣領民に示しがつかない。
「辺境伯閣下、いえ、公王陛下。
ここはボドワンに後継者として責任をとってもらいましょう」
悩みに悩んでいたの父親のサザン辺境伯だけではなかった。
サザン辺境伯を陰から支えている、妻のエルゼ夫人も悩み苦しんでいた。
彼女には溢れんばかりと母性があったが、若い頃は冒険者として生きていたので、戦友を見殺しにしてでも生き残る、非情な決断ができるだけの経験もあった。
同時に、損得を見極める冷徹な計算力もあった。
そのエルゼ夫人が、夫を辺境伯を独立領主と呼ばず、公王陛下と呼んだのだ。
「エルゼ、お前、私に建国宣言をしろと言うのか?!」
サザン辺境伯、いや、ルマンドは妻の言葉に驚愕していた。
ルマンドもフレビオ王国からの分離独立を考えた事はあった。
だが、何度考えても勝算がなく、断念してきたのだ。
単なる戦闘ならば、ルマンドの才覚だけでもフレビオ王国と互角に戦う自信があったし、ボドワンが頭角を現してからは、勝てると確信していた。
だが、サザン辺境伯領にはどうしようもない弱点があった。
解消しようのない、絶対的な弱点だった。
「はい、公王陛下。
ただし、それはボドワンが後継者としてに責任を果たしたらの話です。
よく聞きなさい、ボドワン。
ターニャを傷つけるようなモノを押さえつけるには、力が必要です。
私達が誰にも頭を下げずに生きていくには、塩を確保しなければいけません。
今回の責任をとり、貴男が塩を確保するのです。
例え相手が何の罪もない善良な貴族であろうとも」
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