第11話:塩

 塩だ、塩が絶対に必要なのは馬鹿な俺にだってわかる。

 だが、フレビオ王国には岩塩窟が一ケ所しかない。

 ザリフト皇国との国境近くにあるスティン辺境伯領だ。

 フレビオ王国の命運を握る場所だけに、常にザリフト皇国との開戦原因となる争乱地だけに、有力な辺境伯家が領有しているのだ。

 今回のザリフト皇国との戦争では、ザリフト皇国が王都を優先したから無視されたが、これからは今まで以上に狙われるだろう。


「デヤウスと戦わなければならないのか……」


 スティン辺境伯家の長男デヤウスは、馬鹿な俺をよく助けてくれた。

 どんな戦争でも、俺は先頭をきって正面から突撃する事しかできないのだが、デヤウスは色々と考えてくれて、その通りに動けば戦友を死傷させなくてすんだ。

 それくらいデヤウスは頭がよくて、親切な男だった。

 だが、岩塩窟を確保するには、スティン辺境伯家と戦って奪わなければいけない。

 やりたくはないが、ターニャのためならやらなければいけない。


「何をお悩みですか、お坊ちゃま」


「おお、爺か、父上と母上に塩を手に入れろと言われたのだが、それにはデヤウスのスティン辺境伯家と戦争をせねばならぬのだよ……」


「ほう、ほう、ほう、友人と戦争しなければいけない、それはお困りでしょう。

 友情を大切にされるお坊ちゃまには、とても苦しい事でしょう。

 ですがお坊ちゃまなら、戦争をする必要などないと思いますが?」


「どういう事だ、爺?」


「お坊ちゃまの勘は、幼い頃から信じられないくらい的確でござました。

 幸いサザン辺境伯家には、果ての分からないほど広大な未開地がございます。

 お坊ちゃまの勘で探されれば、岩塩窟が見つかるのではありませんか」


「なるほど、それはいい考えだな、やってみよう」


 俺は、父上が生まれる前からスティン辺境伯家に仕えてくれている忠臣。

 だから爺の教えてくれた通りにした。

 自分の野生の勘を信じ、ひたすら未開地を奥へ奥へと進んでいった。

 行く手を遮る魔獣や獣は、手当たり次第殺して魔法袋の放り込んだ。

 俺が未開地で岩塩窟を探すと両親に話すと、家が所有する魔法袋を全て渡され、狩った獣と見つけた岩塩を持って帰って来いと言われた。


「ふむ、父上と母上も俺の勘を信じているのか?」


 私は全速力で未開地を三日三晩走った。

 軍の将兵が行軍する場合は、六十日は計算しなければいけない距離だ。

 流石に四日目には眠くなったので、少しだけ起きながら眠った。

 普通の人に話すとおかしいと言われるのだが、そうとしか言いようがない。

 それからは時々仮眠しながら三日三晩走った。

 そして、とても大きな塩辛い湖を見つけた。

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