エピローグ

「本日ミガネ屋のゲストは日本ビジネス界の革命児、イツビシのCEOであらせられるイツビシ マサシさんです!どうぞよろしくお願いいたします」


「どうも、イツビシです。よろしくお願いします」


「いやしかしイツビシのトップの御方がこのような、言うてねぇ、バラエティ色の強い情報番組に出ていただけるとは思ってもみませんでしたよ私!」


「本当に~!人生で一度お目にかかれるだけでもラッキー、って感じですよね!!」


「いやいやイトウちゃん!ラッキーって軽すぎやろ!日本の、我が国のトップの社長さんやで!失礼ないようにせな!」


「いえいえ、どうかフランクにお願いしたいです。前時代的な選民思想は、私の望む社会とは程遠いものですから。これからの時代、フラットが目指すべき形で、あるべき姿だと思っています。手前味噌ですが日本企業のトップランカーとして、堅苦しいニュース番組より若い世代も見やすいミガネ屋さんに出演させてもらうことで、《平等な世の中》という考え方を広く伝えていけたらと考えているんです」


「うわーかっこいい!かっこいいわ!さすがは若き時代の申し子ですね!新しい風をビュンビュン吹かそうとしてはるんですね!」


「本当に素敵です~。……ではここで、紹介する必要もないほどご周知のことかもしれませんが、華麗なるイツビシの歴史を特別編集した映像と共に振り返りたいと思います!」


「VTRどうぞ」


 撮影スタジオの片隅で、収録の様子を見守りながらイツビシの社員二人がコソコソと喋っている。


 ――おいおい、あの坊ちゃん、また女子アナに連絡先渡してるぞ。


 ――ったく、またかよ?イツビシの新しい広報戦略だ、とか言って女子アナ食いたいだけなんじゃねぇのか?坊ちゃんはよォ……。


 ――なぁにが革命児だよ、二世風情が。


 ――おいお前、聞いたことあるか?坊ちゃんの噂。


 ――噂?ありすぎてむしろどれだよ。


 ――前の社長殺したの、坊ちゃんだって噂だよ!


 ――え?実の父親だろ?


 ――それだけじゃない、母親も殺したって噂だ。


 ――さすがにそれはデマだろ。前の社長が亡くなったのって何年前だよ、坊ちゃん十代の頃だろ?


 ――死んだ後、坊ちゃんが会社継ぐまでの動きが不自然すぎるくらいスムーズだったって話で、御大のジジ様連中も動き出してるらしいぜ?


 ――うわ、ジジ様連中が……。坊ちゃん引きずり落とされるんじゃねぇの?なんだかんだで若い社員にも日の目が当たって、いいところもあったんだけどな、坊ちゃんの経営。


 ――やたら革新、平等って言い続けてるのも相当お気に召さないらしいからな、ジジ様連中。


 ――まぁ、二十代の小僧が栄えある自分たちの上に立って、更に若い人間の登用に力入れてんだから、そりゃあ既得権益年功序列大好きジジ様連中からすると面白くない話だよな。


 ――あぁ。弱肉強食の一片がまた見れるかもなぁ。


 ――うわぁ……せいぜい巻き込まれて損しないようにしないとな……。


「――なるほど。新規事業も順風満帆ということですね。それではイツビシCEO、最後に経営のコツ、またはヒントなどお聞かせ頂けますかね?」


「……そうですね。そこまで大袈裟なものではないですが、やはり信用を得るのは何より重要です。時にはプライドよりも優先して信用を得る必要があると思います。うーん……あとは、ビジネスも結局は人と人のやりとりなので、それぞれのメリットとデメリットを見極めることですね。こう言うと、当たり前だなんて言われたりするんですけど、意外とメリットにしか目がいっていなかったり、デメリットしか見えてなかったりする人が多いんですよね。片方だけではなく両方をキチンと掴んでおけば、案外簡単に人間を思うように動かすことも出来るんですよ。うわこれ、次一緒に仕事する人とか見てたら嫌だなぁ。皆心を閉じて接するようになったらどうしようかな、ハハハ」


「アハハハ、気をつけてください!皆さん!CEOに操られますよ!」


「えぇ~!私操られてみたいです~!」


「君もうメロメロやな!いいから番組締めるで!CEO、次のご出演、是非お待ちしております!」


「それでは、皆様の笑顔が今日も咲きますように!また来週です!」

「また来週~」

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最後の微笑み かえるさん @michodam

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