ランテと共に世界へ挑め。最高のハイファンタジーをあなたに

細部までよく練られた世界観や構成、一人ひとりの生き様が丹念に描かれた本格的な戦記物です。正直、このレベルの作品が無料で読めるなんて!と声をあげて伝えたい作品です。

舞台は白女神率いる「白軍」と黒女神率いる「黒軍」が何百年にもわたって戦い続けている世界。序盤から登場人物が複数登場し、また世界観や地名など入ってくる情報が多いのですが、主人公のランテが記憶喪失である為に、ランテと一緒に一つ一つ理解していきながら物語に入っていくことができます。おそらく何度か校正を重ねており、情報量が多いのに読者が一読して理解できるような配慮が随所で見受けられるので、情報量と文字数に怯まずに挑んでほしい作品です。

この作品の見所は、何と言っても心理描写が巧みで、物語への没入感が群を抜いている点です。
人の感情は悲しみや怒りなど一言では表現することができず、複雑に絡み合っているもの。好きという感情の中に苦しみや羨望、悲しいという感情の中に怒りや安堵が混ざるように、人の心というものは相反する感情を同居させる生き物です。この作品ではその些細な心の動きや感情をあますことなく丁寧に書ききっている為、読んでいくうちに彼らと一体となって戦いに挑んでいるような気持ちになります。本を読んでいる、という感覚ではなく、彼らと一緒になって世界を切り拓いていくような感覚です。

もちろん、物語の構成も秀逸で、次第に明らかになっていくランテの過去や、本当の敵達。特に中盤では仲間が分断されたり、大切な仲間が去っていくなど、読者を心を大きく揺るがせる展開を挟んでいきますが、彼らの心情描写が巧みである為「ああもう、確かにあなたならその道を選びますよね」とついつい納得してしまいます。ゆえに読んでいて苦しい展開が続きますが、ランテが希望を捨てずに立ち向かってくれる為、読者も踏ん張ることができます。
そして苦しい展開があったからこそ、後半の巻き返しが輝く。最新話まで拝読しましたが、謎の答えが開示され、最終決戦に向けての盛り上がりを最高に感じます。まるでここまで読んできた読者にはご褒美のような熱い展開の連続。読者が受け取る感情はリアルですが、それでも物語の構成と展開はエンタメ寄りで、苦しいシーンの後は読者が興奮して熱くなるようなシーンをしっかりと挟んでくれる所も時間を忘れて夢中になって読んでしまう秘訣かもしれません。

物語の世界とは思えない、リアルな感情と共に世界に没入しながら読みたいあなたに、ぜひ読んでもらいたい作品です。

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