ゴリ美

　見た目がどう見てもゴリラな心優しい女性リミちゃんと、その彼氏であるともくんの、日々の生活と夢のお話。
　現代ファンタジーです。いやファンタジーなのか？　いや作品のジャンル分けをいくら考えたところで詮無いことではあるのですけれど（それで中身が変わるわけでなし）、でも本作の場合はそこに謎の厚みがあるというか、「意外とどの枠でもいけるのでは？」みたいな感覚が面白いです。
　主人公とリミちゃんの恋模様を見守る恋愛ものであり、でも最初から恋人同士なのでいちゃいちゃしたラブコメ的な楽しさがあり、そしてゴリラ要素を除けばそのまま現代ドラマでもある（ある意味ショートショート的？）。さらにはそのゴリラという…続きを読む

まずナツメさんの人間描写ってものすごい一本筋の通った倫理性があってそこに圧倒されるんですけど、このお話に関してもゴリ美ちゃんというマイノリティの悲しみとか怒りの描写の解像度がものすごく高くてその一本通った芯に表現者として、や小説としての格の高さを感じます。
KUSO小説としてのドライブ感を保ったままB級に落とさない力がすごいです…

ゴリ美ちゃんかわいい。

　所謂「空気を読む」という手段によって世界観はボヤかされる。それをリミちゃんはずっと苦悩していて、優しい彼でも立ち入れない孤独な世界だ。その解決策として取られた手段が無茶苦茶で笑ってしまった。禁忌といってもいい。逆に言えば非科学的なユートピア思想でしかリミちゃんを救えなかったのかと思うと切なさも否めない。

"僕が小さくドラミングの仕草をしてみせると、リミちゃんは笑って首を振った。"

　本文からの引用だが、この一文には嘘があってほしくないと思った。独りよがりな読者の期待でしかないが、このささやかなリミちゃんの笑顔はきっと可愛い。