第4話
その日から、リミちゃんと僕は特訓を始めた。
特訓、と言っても、僕はお芝居のことはからきしわからないし、リミちゃんも映画やドラマを見るのが好きなだけで、演技経験があるわけではない。
オーディションのサイトによると、一次審査では自己PRと課題のセリフを読むらしい。まずは課題をダウンロードして、ひたすら練習した。
始めてみて気づいたが、リミちゃんは致命的に声が小さかった。普通に話す分には問題ないのだが、優しくささやくように話すので、セリフとしてはかなり聞き取りづらいのだ。YouTubeで発声練習の動画を見て、休日の昼間に一緒にやった。
だいぶ声が出るようになったところでセリフの練習を再開。僕はそれを見て、わからないなりに思ったことをアドバイスした。もうちょっと感情を出してもいいかも、とか、表情は大げさなくらいでもいいかも、とか。
同時に、自己PRの準備もしなければならなかった。YouTubeで「オーディション対策 自己PR」と検索すると、何件もヒットした。なんでもあるなYouTube。
動画を参考に、僕が審査員役でシミュレーションをした。セリフは堂に入ってきたけど、自己PRになるといつもの気弱なリミちゃんが顔を出す。心を鬼にして厳しい審査員になりきって、何度も何度も繰り返した。
そしてついに、オーディション当日。
お気に入りの――僕がプレゼントした――ワンピースを着て、リミちゃんは玄関に立つ。
「本当に送っていかなくていいの?」
「うん、ともくんは気にしないでゆっくり休んでて。出かけてもいいし」
「わかった。応援してるよ、リミちゃん」
ほっぺにキスをする。リミちゃんは晴れやかな笑顔で
「いってきます!」
と、ドアを開けた。
僕はこのとき、すべてうまくいくと思っていた。オーディションに受かればもちろん、もし落ちたとしても、リミちゃんにとってこの経験はとても大事なものになるだろうって。
まさかあんなことになるなんて、夢にも思っていなかったんだ。
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