第5話
その日の、夕方。午後六時。
結局僕はどこにも行かずに、家でひたすらゴロゴロする最高の休日を過ごしていた。
ベッドに寝そべってスマホゲームに勤しんでいると、ガチャリと玄関から音がして跳ね起きる。
リミちゃんが帰ってきた。
わずかに緊張した。一次審査の結果はその場で出るとサイトに書いてあった。LINEでリミちゃんから報告があるかと思っていたけど、連絡なしに帰ってきたということは、合格の報告を直接伝えようとしているのか、あるいは不合格で落ち込んでいるのか……。
「おかえり」
緊張を感じさせないよう、なるべく普通の声でそう言いながら玄関に向かう。
リミちゃんは――なんだか見たことのない表情をしていた。
悲しそうではない。かといって、嬉しそうでもない。嬉しいのを隠そうとしてるのでもない。
釈然としない、とでもいうのだろうか。何かを考え込んでいるような、決めあぐねているような、そんな曖昧な表情だった。
「ただいま」
それだけ言うと、リミちゃんは他に何も語らず、洗面所に手を洗いに行ってしまった。僕は仕方なく、冷蔵庫から麦茶を出して、二つのコップに注いでリビングでリミちゃんを待つ。
すぐに戻ってきたリミちゃんは、やっぱりまだ曖昧な表情のままだ。「ありがと」と言って麦茶を飲み干したタイミングで、意を決して僕は聞いた。
「……どうだった?」
「合格だって」
――あっさり。
あまりにもあっさりと、朗報がもたらされた。
「す――すごいよリミちゃん! おめでとう!」
僕は舞い上がって、リミちゃんの手を握ってブンブンと振った。すごい。リミちゃんが、大好きな彼女が、女優の夢に一歩近づいた!
しかし、それなのにこの温度の低い反応は一体何なのだろう? まだ実感がないのだろうか?
「次のオーディションの日程はもう決まってるの?」
「いや、二次審査も最終審査もパスで合格だって」
「え!?」
「というか、自己PRも課題もしてないの」
「え?」
「部屋に入ったら、それだけで合格って言われた……」
「え」
――え??
「ねえ、これって、どういう意味なのかな……?」
「……」
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