ゴリ美

ナツメ

第1話

「ウホッ、ウホッ、ウホホォォォォォオ!!!!」


 ドムドムドムドム!


「リミちゃん、リミちゃん落ち着いて!」

 胸をそらして力任せにドラミングするリミちゃんの背後に回ろうとすると、ブン、と空を切る音がして、毛むくじゃらの左手が飛んでくる。

「わ」

 すんでのところでかわす。鼻の二ミリ先を黒い大きな手のひらが通過する。

 なんとか背中に触れて、ペールピンクのブラウス越しに優しく撫でる。服越しにも密集して生えた毛の感触が伝わる。

「ヴー……ヴォウ!!ウホォッ!!!!」

 こうなってしまうとリミちゃん自身でもコントロールできない。唇をめくりあげて咆哮しているが、そのつぶらな瞳から涙がこぼれているのを僕は知っている。

 リミちゃん、リミちゃん。名前を呼びながら背中を撫で続けると、やがて「ウー、ウー」と唸るようになり、呼吸が徐々に落ち着いてくる。ここまでくれば大丈夫。僕はリミちゃんの背中に自分の胸をぴったりとつけて、ゆっくりと呼吸をする。

 すー。はー。すー。はー。


「……ともくん」

 しばらく呼吸をしていると、声がした。

 叫んでいたから少しかすれた、でも遠慮がちで優しい声。

 僕は身体を離して、リミちゃんの前に回り込む。両肩に手を置いて覗き込む。眉を下げて、悲しそうなリミちゃんの顔。頬の毛はやはり涙に濡れていた。

「ごめんね、ともくん、いつも」

 リミちゃんはそう言ってまたぽろりと涙をこぼす。

「いいんだよ、リミちゃん」

 僕が頭を撫でるとリミちゃんはふるふると首を振る。

「でも、また窓ガラス割っちゃった」

「まだ暑いし丁度いいよ、風通しが良くなって」

 ニッと笑ってみせると、やっとリミちゃんも笑顔を見せた。


 紹介します。彼女はゴリ美。あだ名はリミちゃん。

 見た目がゴリラで、とっても優しくて少し気の小さい、僕のかわいい恋人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る