第12話 裏目が過ぎる

東京競馬場のパドックの裏側。

そこには池があり、ちょとした日本庭園の様になっている。

開催日でも、人が少ないこの場所に、毎週集まる3人のおじさんがいる。


「出たよ!買わないとくるんだよな〜」

シゲさんが肩を落とす。

今日は朝からシゲさんが本命にした馬が落馬したり出遅れたりとついていない。

流れが悪いと一回馬券を買うのをやめたところ予想が的中してしまった。

「ヘイバあるあるレすヒョレ〜。ヨホウしてハわないとフるやつ。」

対照的に今日絶好調のマモルくん。焼きそばを食べながらしゃべっている。

おそらく「競馬あるあるですよね〜。予想して買わないと来るやつ」と言っている。

絶好調なため、馬券を買いに行くたびに何か買ってきては食べている。

「こうなると今日はお手上げかな?迷宮入りだよ。」

そう言いながらシゲさんは競馬新聞を閉じてしまった。

「振り返ると・・・」

マモルくんが頼んでもいないのに、シゲさんの今日の成績を振り返る。

「軸にした馬は大体4着。パドック観て予想を変えたら、変える前の予想通りくるし、ギリギリまで迷って切った馬が全て馬券に絡んでる・・・重症ですね。」

「だろ?こんな日はもう店じまいだ。残りのレースは見だよ。見。」

するとマモルくんが

「じゃあ、残りのレースの予想だけしてくださいよ。」

と提案した。

予想して本人が買わなければ当たるなら、予想だけしてもらって僕らが買えば

当たるんじゃないかってことらしい。

「この方法が成功したら、競馬予想の革命が起きますよ!金の匂いがする・・・」

と、マモルくんは悪い顔をしている。

面白そうなので、僕も乗っかってみた。

結果は、、、見事に的中!!

「すごいですよ!シゲさん!まさに神です!」

「次は!次のレースの予想は?」

テンションが上がった僕とマモルくんは、シゲさんに詰め寄っていた。

「なんだよ〜。俺全然面白くね〜じゃんか。」

「シゲさんすごいじゃないですか!ここまで裏目に出るなんて神懸かってますよ。」

「シゲさん次のレースは?」

「え〜、、、、」

渋々予想を聞き出した僕とマモルくんは、次のレースもシゲさんの予想通りに買ってみた。

結果は、、、ダメだった。

「そうそううまくはいかないか・・・」

まぁそんなものだ。と諦めかけた時、シゲさんが馬券を破りながら

「なんだよ〜。期待したのに全然じゃね〜か!!」

「何買ってるんですか!!!」

マモルくんと僕の声が綺麗に重なった。

「だって・・・当たるって聞いたら買うだろ普通。」

「シゲさんが買わないから当たるんですよ!買ったら当たらないじゃないですか!」

その通りである。何してんだろこのおっさんは!

「それじゃあ俺が面白くないじゃないか!」

「シゲさんが面白いかじゃなくて、検証なんですから協力してくださいよ。」

「わかったよ。もう買わないよ。買ったら当たらないんだろ?」

「買ったら当たりません!」

「じゃあその代わり、金渡すから代わりに買ってくれよ。それならいいだろ?俺買ってないし。」

「それじゃあ結局買ってるじゃないですか。ダメですよ。」

「それじゃあ俺が面白くないじゃんよ〜」

「シゲさん我慢してください。買っても当たらないんですから。」

「もういいよ・・・俺ボートやるわ。勝手にやってな。」

シゲさんはつまらなそうに拗ねて、携帯で舟券を買い出した。

ここまでツイてないのに、まだギャンブルやるのか・・・

やはりシゲさんは本物である。

するとマモルくんがまた悪い顔をして

「舟券ですか?何番買ったんですか?」

「あぁ、もうどうせ当たらないなら、123のボックス買えば、舟券なら当たるだろ?」

ボートレースでは123番が有利で、1日やれば必ず123番で決まるレースが

1つ2つあるものなのだ。

それを聞いたマモルくんが小声で

「祐介さん、次のレース123番ボックスですよ。」

と呟いた。

まさか、マモルくんも鬼である。

いくら今日のシゲさんが裏目続きでも、舟券で買った目が競馬のレースで来るなど、、、、あった!

まさかの展開である。

冗談抜きに抜きに神懸かっている。

シゲさんは肩を落とし

「今日はもう無理だ。帰るわ、、、」

そう言って競馬場を後にした。

悪いことをしたと思い、後を追ってみると

パチンコ屋に入って行くシゲさんを見つけた。

やはり本物である。まだ諦めていない。

「何しにきたんだよ!」

と怒るシゲさんを挟むように台に座り

「最後まで付き合いますよ」

とマモルくんがパチンコを打ち出した。

続けて僕も打ってみた。

2人ともすぐに当たった。

ここまでくると流石のシゲさんも笑っていた。

「やはりシゲさんは神ですね。」

「どこが神なんだよ。今日全敗だぞ。」

「周りを幸せにするのが神様なんですよ。」

「よし!飲み行くか!ちゃんとお供えくらいしろよ!なんせ神様なんだから。」










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