第11話 ファン?

東京競馬場のパドックの裏側。

そこには池があり、ちょとした日本庭園の様になっている。

開催日でも、人が少ないこの場所に、毎週集まる3人のおじさんがいる。


「いよいよメインレースですね!今日はユキンコが出るんですよ〜。

僕大ファンで、パドック見に行きません?」

メインレースを前に、マモルくんに強引に誘われ、

珍しく3人でパドックを眺めていた。

すると、メインレースに出場する馬がパドックに現れる。

「来ました!ユキンコ!相変わらず綺麗ですよね〜。」

マモルくんがファンだと言っていたユキンコがパドックに現れる。

ユキンコは、4歳の牝馬で競走馬には珍しい白毛で人気があった。

いわゆる白馬というやつで、少し前に白馬で初めてG1を買った馬がいて話題に

なった。その馬の親戚に当たる。

「ユキンコの新馬戦見て大ファンになったんですよ。あれすごかったじゃないですか!後続に影もふませぬ逃げ切りで、7馬身もぶっちぎったあのレース!白馬の逃げ馬って、泥被らないから最初から最後まで綺麗で優雅で・・・すぐファンになっちゃいましたよ〜」

だそうだ。

「もう引退したほうがいいじゃないのか?ここのところ全然勝てないだろ?」

シゲさんのいうように、ユキンコはデビュー後こそ快進撃を続けたものの、

3歳の早い時期から勝てないレースが続き、今ではレースに出ても2桁着順ばかり

続いている。

「頑張ってるからいいんですよ!そういう姿を応援したいんです。」

ファンとはそういうものなのだろうか?

「じゃあ、マモルはユキンコから行くのか?来たら相当付くぞ。」

シゲさんがいうのも当然で、ユキンコの人気は12頭中11番人気。

ユキンコが絡んだだけで万馬券確実な状況だ。

「買うわけないじゃないですか。11番人気ですよ。来るわけない。」

「え?ファンじゃないの?」

シゲさんと綺麗にハモってしまった。

「それとこれとは別ですよ。もちろん応援はしますけど、馬券は買わないです。

だって勝てるわけないじゃないですか〜。ここ5戦最高が12着ですよ。

そんな馬買えないですよ〜」

「ファンだったら一応記念にとかで買うもんじゃないのか?馬券買って応援だろ?」

シゲさんのいう通りである。

たとえ勝てなくてもファンなら馬券を買って応援するものだと思っていた。

「お金もったいないでしょ。馬券なんて外れたらゴミですよ。」

マモルくん、本当にファンなのか?

「ハズレ馬券も記念に取って置くのがファンじゃないのか?」

「なんの記念なんすか?いらないですよ。」

「ユキンコのグッズとか買わないの?カレンダーとか売ってたけど・・・」

さっき売店に売っているのを見かけたので聞いてみた。

ユキンコは珍しい白毛馬ということもあり、グッズも結構揃っている。

「買わないですよ〜、カレンダーなんて飾らないですし。必要ないでしょ?」

「お前、本当にファンなのか?」

シゲさんがマジな顔で問いただす。

「シゲさんも疑り深いですね〜。ファンですって!いつも応援してますもん。

今日だって本当は勝って欲しいですよ。欲しいですけど絶対に勝てないです。

だって前走ビリですよ。」

「ファンなんだろ?ファンなら馬券もグッズも全部買えよ!」

僕もそう思う。ファンというものは、たとえ弱くても馬券を買い、グッズが出たら手当たり次第に手に入れて家に飾るものだと思っていた。

「そんなことしたら家がゴミだらけになっちゃうじゃないですか?」

ファンならグッズをゴミって言うな!

「そんなどこぞのアイドルファンみたいなことしないですよ。」

あ、これ大声で言うのは良くないやつだぞマモルくん。

「でも好きなら、面白くない芝居でも全公演見に行くのがファンだろ!」

おい!シゲさん!それもダメなやつだ!

「一度も聞かないCDを何枚も買うようなバカにはなりたくないんですよ!」

おいやめろ!マモル!

「ファンなら・・・」と言いかけたシゲさんを静止した。

これ以上は言うべきではない。

するとマモルくんが

「僕はユキンコを応援してますけど、弱いことも知っています。そこを見誤るほど

バカじゃないですよ。絶対に来ないです!」

ファンにこんな風に言われるのは少し可哀想だなとも思うが、

マモルくんなりの愛情がそこにあるということにしておこう。


そしてメインレース。

マモルくんに連れられ、今回も珍しくゴール前でレースを観戦することになった。

スタートを無難に決めたユキンコが先頭で引っ張る展開に。

4コーナーを回り、白毛の馬体が馬群を引き連れて坂を登ってくる姿は、

とても美しく、とても前走でビリに負けた馬には見えなかった。

ユキンコは、そのまま白毛を靡かせ、影も踏ませずに逃げ切ってしまった。

「やりましたよ!ユキンコが逃げ切りました!!この姿がまた見たかったんです!!」そう言いながらマモルくんは嬉しそうに喜んでいる。

絶対勝てないと断言していたくせに・・・

「ありがとうな。マモル。おかげで馬券が取れたよ。」

「え?」と目を丸くするマモルくん。

僕とシゲさんはユキンコの馬券を取っていた。

「絶対来ない!!なんてフラグ立てるようなこと言われたら、普通買いますよね。」

「いいかマモル。絶対来ない馬がたまに来るのが競馬なんだよ。」
























「最近、コンビニでタバコ買おうとすると、番号でお願いしますって言われるんだよ。メビウスライトくださいって言っても、番号でお願いしますとか言われてさ〜。あれ腹立つんだよな〜。」

そう言うとシゲさんは、鞄から新しいタバコ出した。

カバンの中には、タバコのカートンが2つも入っている。

「あれってさ〜。バイトが種類の多いタバコを覚えるのが大変だから、番号でって言ってるんだよな?多分。だとしたら、レジの奥にあるタバコの陳列棚から、自分のタバコの番号を見つけて言うのは、バイトの仕事を代わりに俺がやってることになるんだよ。時給ももらってないのに・・・こっちがやる必要ある?」

確かに、シゲさんの言うことも一理ある。

「でもタバコ欲しいなら番号で言わないと買えないじゃないですか?」

マモルくんがもっともなことを返すとシゲさんは、

「そうなんだよ!そこが余計腹立つんだよ!結局番号で言わないとタバコが買えないんだよ。自分のところの商品も覚えられないバイトなんて雇うんじゃないよ!」

「それなら、見たらいいじゃないですか?後ろの棚にあるなら、そこから自分のタバコを探して、番号を伝えれば・・・」

話を冒頭に戻すマモルくん。

「だからそれは店員の仕事だろ?」

「でもタバコ欲しいなら番号で言わないと買えないじゃないですか?」

話を2周目に突入させるマモルくん。

「お前は何回同じ話をさせるんだよ!」

「でも・・・」

「でもじゃなくて、なんで店員がタバコの銘柄を覚えるって発想にならないんだ?自分のところの商品だろ?全部覚えろよ!もしくは探せよ!」

「それじゃあ店員の負担が増えるじゃないですか?」

「その負担をお客側がするなら、その分たとえば割り引くとかしないと割に合わないってことですよね?」

「そう!それ!祐介は話がわかるね。マモルとは大違いだ。」

堂々巡りに嫌気がさして口を挟んだものの、僕はタバコを吸わないので、

喫煙者の苦労など全く理解はしていない。

「だからよ。もう番号でって言われたら、二度とそのコンビニに行かないって決めたんだよ。」

「行けないコンビニが増えそうですね。」

「祐介!まさにそれなんだよ!気がつくと、家の近くのコンビニは全滅で、タバコ買うのに1駅歩いたり、タバコ吸いそうな店員を見つけたり、こんなことなら番号言うかとも思ったんだけど、それだと負けたような気がするだろ?だから、タバコ屋さんでまとめて買うことにしたんだ。」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る