第6話 ウマ娘?

東京競馬場のパドックの裏側。

そこには池があり、ちょとした日本庭園の様になっている。

開催日でも、人が少ないこの場所に、毎週集まる3人のおじさんがいる。


「またダメだ〜」

マモルくんが頭を抱えている。

今日は朝から荒れ模様で、ガチガチの本命党のマモルくんには分が悪い1日だ。

「この馬券は、マモルには無理だな!」

「70万馬券ですよ・・・あれ?まさかシゲさん取ったんですか?」

得意げな顔のシゲさんにまさかと思い聞いてみると。

「祐介・・・・取れるかこんなもの!荒れれば良いってもんじゃないよ!今日は無理だわ。」

シゲさんにとっても、ラッキーデイじゃなかったみたいである。

それほど、今日は朝から馬券が荒れている。

「荒れれば良いってもんじゃないんねぇ〜よ。穴ってのは脈絡が必須なんだよ。人気の無い馬でも、コースが得意だったり、斤量が軽かったり、ジョッキーが変わったりで、条件が好転していれば狙えるんだよ。でも今日はダメだ。何の脈絡もない馬ばかりだよ。」

「2人はまだ競馬なんてやってるんですか?」

マモルくんがこちらを見下すようにみながら言ってきた。

「競馬場にいるんだから、競馬するに決まってるだろ?パチンコしてるように見えるか?」

「僕はもうとっくに今日は諦めて、ウマ娘をやってますよ!」

ウマ娘?競馬場で?

「いいですよね〜。ウマ娘を競馬場でやるなんて、ウイイレを国立競技場でやるようなもんですよ!」

良いのかそれ?

すると、シゲさんが小声で「ウマ娘ってなんだ?」とこっそり聞いてきた。

「スマホのゲームですよ。」

「マモル!お前競馬場でゲームやってんのか?」

「今日は馬券が取れる気がしませんからね。取れないレースに手を出さないことも競馬の鉄則ですよ。」

これぞ、マモルくんの真骨頂である。

競馬場に来てる人のほとんどは目の前のレースを全てやってしまう。

しかし、1日で当てられるレースはせいぜい2〜3レースくらいのもので、全レース外すことも少なくない。

本当は、獲れそうなレースを見極めて、獲れそうにないレースはやらない

これができることが重要になる。

しかし、これがなかなかできないのがギャンブラーの性なのである。

それを難なくやってのけるのがマモルくんの強みでもあるのだ。

それとは真逆のシゲさんからは、この感覚が信じられないらしい。

「相変わらず、潔良いというかなんというか・・・取り返そうとか思わないのか?」

「これ以上の損をするよりもマシですよ。」

「だからって、競馬場でゲームってよ〜。家でやれよ。」

「ウマ娘面白いですよ。シゲさんもやってみたらどうです?競馬より全然お金かからないし。」

そういうと、マモルくんはシゲさんのスマホを取り出し、勝手にダウンロードを始めた。

「マモル!何やってんだよ!」

「いいじゃないですか。タダなんだし。ほらどうぞ!」

シゲさんとウマ娘の初めての遭遇である。

「これがウマ娘?ただの女子じゃね〜か・・・」

「そうですよ。キャバクラの子より可愛いでしょ?」

「ウマ娘ってから、てっきりケンタウロス見たいのを想像してたわ。」

そのウマ娘・・・流行らないでしょ。

「これどうすんだよ。」

「好きな子を選んで育てて、レースに出すんですよ。」

「なるほど」

なんだかんだ、シゲさんはマモルくんに教えられてウマ娘を始めた。

それを見届けて、僕は次のレースのパドックを見に行った。

それを見て「祐介さんもやりましょうよ!」とマモルくんは声をかけてきたが、

一旦無視してパドックに向かった。

しばらく一人で競馬するしかないようだ。

パドックを見て予想し、馬券を買って戻っても仕方ないので、そのままスタンドで観戦をした。2レースほど終わり、マモルくんシゲさんの元に戻ると、シゲさんとマモルくんが取っ組み合いになっていた。

どうなってるんだ?

「祐介さん!シゲさんを止めてください!」

そう叫ぶマモルくんに従い、シゲさんを羽交い締めにした。

「祐介何住んだ!!」

暴れるシゲさんを必死に止め、

「何があったの?」とマモルくんに聞いた。

「シゲさんが課金をやめないんですよ!もう10万も注ぎ込んじゃって・・・」

羽交い締めにしたシゲさんに強い口調で「何してんですかシゲさん!」そういうと、

諦めたのか、シゲさんは暴れるのをやめ、力なくベンチに腰を下ろした。

「だってよ〜。オグリキャップが出ないんだよ・・・オグリがよ〜・・・」

マモルくん曰く、ほんの数分でドハマりしたシゲさんは、ルドルフとオグリがどうしても欲しいあまり、課金しまくったらしく、競馬の負けを遥かに超えて課金し出したので、必死に止めていた次第らしい。

「無料だから進めたのに、最悪ですよ・・・」

「シゲさん、10万も課金してどうするんですか?」

そう聞くと、新聞を取り予想をし出した。

「取り返しゃいいんだろ!次のレースで取り返してやりゃ〜」

そう叫んで携帯を奪い、そのまま馬券を買いに行った。

「大丈夫かな?」

「まだ課金する気だな・・・」

その日、シゲさんはそのまま帰って来なかった。

翌週、シゲさんはオグリとルドルフを完ストしていたのだが、いくら使ったかは誰も聞かなかった。




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