第3話 確率

東京競馬場のパドックの裏側。

そこには池があり、ちょとした日本庭園の様になっている。

開催日でも、人が少ないこの場所に、毎週集まる3人のおじさんがいる。


「1番人気が1、4倍ですって!これは間違いないかな〜」

マモルくんはいつも堅実な馬券の買い方をする。

1番人気が大好きで、大体いつも1番人気から勝っている。

「馬鹿だな〜。こういうのが来ないのが競馬なんだよ。」

シゲさんは、マモルくんの真逆で、1番人気を買うことはまず無い。

「いいか?こういうグリグリの人気馬が消えると、途端にオッズが上がる。

このレースは万馬券決定だな。」

「シゲさん、単勝1倍代の1番人気が消えることなんてそうそう無いですって。

ここは手堅くいくのが間違いないですよ!」

同じ1番人気でも、3倍のオッズがつくこともあれば、1,1倍の断然人気の時もあるので、オッズによって信頼度はかなり違ってくる。

1倍代の1番人気は信頼度がかなり高く、そうそう無い。

「マモル、1番人気が勝つ確率って知ってるか?」

「そりゃ、80%くらいじゃ無いんですか?」

「約32%くらいだよ。」

「え?そんな低いんですか?」

思わず声が出てしまった。そんなに低いとは・・・

「祐介が驚くのも無理はない。それくらい低いんだよ。」

確かに思ったより低い。低くても50%くらいはあると思っていた。

「でも、1番人気でその程度なら2番人気以下はもっと低いってことですよね?」

「ただ、そこまで信用できる数字じゃないだろ?7割くらいは負けるってことだぞ。1日12レースあるうち、8〜9レースは1番人気が負けるってことだ。」

「う〜ん・・・確かにそう言われると少ないですね・・・これなら僕が富士そばで

コロッケそばを頼む確率の方が高いですよ。」

マモルくんはかなりの確率でコロッケそばを頼むんだ・・・どうでもいい情報をありがとう。

「確かに、俺がキャバクラで玲奈ちゃんを指名する確率よりははるかに低いな。

3割だと、マリアを指名する確率くらいだ。」

全然ピンとこない。

「そうなると、世の中で1番人気くらいの確率って何ですかね?」

空気が止まってしまった。余計なことを言ってしまったのだろうか?

「ゆうすけは難しいことを言うよな?」

「30%くらいの確率・・・僕が結婚する確率はどうですか?」

「そんなに高い確率なら、さっさと結婚しろよ!」

シゲさんの言う通りである。

「じゃあ、白いシャツにカレーうどんの汁が跳ねる確率。」

「それはもっと高いだろ〜。俺はほぼ100%で跳ねるぞ!」

そもそも、白いシャツでカレーうどんを食べるなよ。

「あれはどうだ。靴の中にいつの間にか小石が入ってる確率。」

「それだ!」

それか?

「あれ何で入るんだろうな?いつの間にか入ってるんだよ。」

「30%もありますかね〜・・・」

「ほんとゆうすけは厳しいな。」

「30%に厳しいですね。30%で何かあったんですか?」

そんなに拘ってるつもりはないんだが、小石が靴に入る確率ではなんか納得いかない。

「じゃあ、ゆうすけの思う30%は何だよ。」

そうなるか、まぁしょうがない。ここはみんなが納得する30%を見つけるしかない。

「あれはどうですか、USBを刺そうとして逆になってる確率。」

「それはほぼ100%だな。」

「ですね。ほぼ100%です。」

これもダメか・・・では。

「自分の前のやつが自動改札に捕まる確率は?」

「それは50%だな」

「50%ですね。」

半分も?そんなに高いのか・・・

「じゃあ、コンビニの弁当に割り箸が付いてない確率は?」

「それも50%だな。」

「同じくです。」

もうそのコンビニ行くな!

「じゃあ、タッチパネルが反応しない確率は?」

「それは80%だな。」

「僕も80%です。」

「家に帰ると空気清浄機が全力で動き出す確率は?」

「100%・・・」

「100%です・・・」

「炭酸飲料が吹き出す確率は?」

「60%・・・」

「70%かな・・・」

「ルンバに追いかけられる確率は?」

・・・・・・・

シゲさんもマモルくんも大人しくなってしまった。

「なんか変なこと言いました?」

「いやいいんだ。」

そう言うとシゲさんとマモルくんは黙ってしまった。

重たい空気が3人を包む。

シゲさんが沈黙を破りつぶやいた。

「なんか俺たちって地味に不幸だな・・・」

「ですね。」

シゲさんマモルくん、なんかすいません。




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