第4話 自分の役
東京競馬場のパドックの裏側。
そこには池があり、ちょとした日本庭園の様になっている。
開催日でも、人が少ないこの場所に、毎週集まる3人のおじさんがいる。
「中村梅雀かよ〜」
シゲさんが不服そうな声を出した。
「マモル〜、何笑ってんだよ。」
「いや…あまりにもはまり役だったので…すいません。」
と謝るまもるくんだったが、
「マモルはもう絶対に宮下草薙の宮下だからな!」
「それも嫌ですけど、せめて草薙にしてくださいよ〜。」
午前中のレースで負けすぎたため、メインレースまでの時間を潰していたところ、
シゲさんが突然、この3人でドラマをやったらどういう配役かキャスティングしようと言い出して始まったキャスティング会議。
勝手に決めたら似ても似つかなくなるので、みんなで話し合い、決めることになり、その結果が、マモルくんが「宮下草薙の宮下」でシゲさんが「中村梅雀」、
僕が「柄本時生」という案に落ち着いた。
落ち着いたが、誰も納得はしていない。
そういう状況だ。
「俺はもっとかっこいい役者がいいな〜。堤真一とかさ〜。」
「堤真一って〜、シゲさんが堤真一な訳ないでしょ〜。要素がひとつもないですよ〜。中村梅雀一択です。」
「でもよ〜、中村梅雀と宮下草薙の宮下と柄本時生のドラマ、誰が見るんだよ〜」
「渡部篤郎は?そうしよう!だって中村梅雀じゃ、2時間サスペンスにもならないよ!イメージ連ドラだからさ〜。数字も取らないとさ〜」
妄想で数字を気にする必要ありますかね?
「やっぱり自分で好きな役者決めましょうよ!」
「それだとリアリティーなくなるって言ったのマモルくんじゃない?」
「キャスティングでここまで揉めるとは思わなかったな・・・致し方ない、ここは
マモルの意見に賛成する。」
2人とも、妄想なのにそんなにこだわるかね・・・
「ということで、俺は竹野内豊で。」
シゲさんが竹野内豊?よく言って中村梅雀なのに?
「シゲさん、渡部篤郎って言ってなかった?」
「好きな人選べるなら、竹野内豊だよ。」
「じゃあ、僕は浜辺美波で。」
女優?性別変えるのありなの?
「マモルが浜辺美波なわけないだろ?」
「綺麗どころがいないと、数字取れないですよ〜」
「確かにな〜」
確かにな〜じゃねーわ!どこで納得できるんだよ!
「ゆうすけはどうするんだ?」
「え?僕は・・・誰でもいいですよ。柄本時生のままでも。」
「は?もっと欲張らないとさ〜。妄想なんだから遠慮したらダメだよ〜。マモルなんか、浜辺美波だよ。こいつに浜辺美波要素見つけたことあるか?」
「ジャニーズ欲しいですよね。ジャニーズ。」
「いいじゃんジャニーズ!」
「いやいや、2人ともやめてくださいよ。僕にジャニーズ要素なんてないし・・・
バレたら炎上しますって。」
「なんで炎上するんだよ。妄想何だからいいんだって!山下智久とかにどうだ?」
どうだ?じゃなくて・・・
「シゲさん、僕いいの見つけちゃいました。ジョニー・デップはどうですか?」
「おいおい、ハリウッドかよ〜」
「ハリウッドいた方が格が上がりませんか?」
「爆上がりだよ〜。アカデミー狙えちゃうじゃん!」
狙えるか!
「よし!そうと決まれば、俺が竹野内豊で、マモルが浜辺美波、
ゆうすけはジョニー・デップな!」
シゲさん・・・言ってて虚しくなりませんか?
「今日は、1日そのキャストのつもりで動いてみましょう!」
こうして、半ば強引に竹野内豊・浜辺美波・ジョニー・デップの3人が主演する僕らのドラマがスタートした。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
スタートしてから、微動だにしない3人
「ブァ〜!!」
シゲさんが何かを振り切るように立ち上がり
「竹野内豊が、こんな息が詰まるとは思わなかった!」
「はぁはぁ・・・浜辺美波の呼吸の仕方すら想像つきません・・・死ぬところでした〜」
「ジョニー・デップになった途端に、身動きひとつ取れなくなりました。」
「この3人が競馬場にいて、どんなふうに過ごすか想像できないですね。」
「身の丈に合わないとこうなるんだな・・・恐るべし竹野内。」
「やっぱり僕は、宮下草薙の宮下なんですね・・・」
「梅雀に戻るか・・・」
「そうですね。僕も柄本時生、いや時夫の方が動きやすいです。」
こうして、中村梅雀・宮下草薙の宮下・柄本時生の3人のドラマが始まった・・・・
妄想だけど・・・
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