第24話 再会:ミラー・タイフン
世間一般における決闘を観戦したのち、俺たちは宿屋への帰路を急いでいた。
これからの王都での時間を何に使うのか俺は顎に手をそえて考えていると、途中、すれ違いざまに人の肩にぶつかってしまう。
「すみません」
俺は軽く謝り、先を急ごうとした。
「チッ、気をつけろ、クソガキ」
嫌な態度だ。
口の悪さにチラリと背後へ顔をむけた。
「あ」
「あー!」
俺はその人物の姿に思わず声をもらし、ラテナもまた思わず叫んだ。
ラテナとはにつかない粗野な印象の赤髪。
目つきはガラの悪い不良とかわらない。
その目には見覚えがあった。
金属具をいくつか取り外してラフな格好になっているが、彼が騎士なのは違いない
こいつはミラー・タイフン。
俺がいの一番にぶちのめそうと思っていた憎き仇だ。
「あん? てめぇこら魔術師、なんだよその目は」
ミラーは近寄ってきて顎を突き出すようにしゃくれて爪先から顔まで見上げてくる。
そして、腰の剣を鞘口をいじってチャキチャキ鳴らして挑発をはじめた。
騎士として褒められた行為じゃない、と俺の父ウィリアムが言っていたやつだ。
「はっ、騎士もたいしたことがない。さながらチンピラじゃないか」
「ヘン……ご主人!」
俺は鋭く睨みつけて覇気をたたきつける。
ラテナはあわあわして「今はまずいですよ……!」と耳打ちしてきた。
「てめえ! このアルカマジのクソ雑魚術師がイキッてんじゃねーぞ! この国のやり方を教えてや──」
ミラーは腰の剣をぬきかける。
いいだろう。
殺るならこっちがぶちのめしてやるよ。
迎え討つため俺は腰をおとす。
が、予想外なことに斬りかかってこない。
ミラーは俺のうしろのほうを気にして、不機嫌に顔をゆがめ、音をたてて剣をおさめた。
「運がよかったと思え、魔術師。この国は礼には礼を。忠には忠を。力には力をもって応じる。よそ者といえど身分の高い者への無礼は許されるものじゃない」
ミラーは改まった様子で声色をかえて、真面目な雰囲気てそうのべた。
なんだコイツ。
前とはやけに態度が違うじゃないか。
「さらばだ」
ミラーは背筋を伸ばし、踵をかえすと靴底を鳴らして来た方へ帰っていってしまった。
俺は背後をかえりみる。
すると、鏡に反射して見覚えのある子供たちが建物の陰からのぞいてきていた。
さっきの塾生たちだ。
ミラーは彼らの目を気にしたのか。
「なにかありそうですよ」
「だな。あの野郎の真面目口調、全然身についちゃなかった」
俺は遠ざかるミラーの背中を睨みつける。
「すこし話を聞いてみようか」
「それがいいですね」
俺とラテナはふりかえり、塾生たちのもとへもどることにした。
「ありがとね、少年」
子供たちのもとへ寄ると、リゼットが出てきてそう言ってきた。
やはり、ミラーと何か関係があるのか。
「ミラーを追い返してくれたんでしょ?」
「追い返したつもりはなかったけど。まだリゼットにちょっかい掛けてるのか?」
「まだ?」
間違えた。
俺は彼女がミラーにつきまとわれている事は知らない体なんだった。
もうリクじゃないんだ。
俺は咳払いして「言い間違えた」と訂正する。
その後、わちゃわちゃしだす子供たちにミラーとリゼットのことを聞かせてもらった。
どうやら、リゼットはミラーから身を離すために魔術塾に住んでいるらしいこと。
そして、そのことを奴は心良くおもっておらず、リゼットの事を娘のように守るリンボリックや、子供たちによく暴力を振るうらしいこと。
俺は改めて確信する。
アイツをはやく何とかしないと、と。
「でも、最近はウィリアムっていう騎士様のお達しで騎士団内の改革がはじまってるんだって」
「だから、ミラーも暴力をふるうと騎士団に連絡がいくんだよー!」
ウィリアム……。
真に誉ある誇り高い騎士だ。
とはいえ、同じ騎士が厳格に騎士をさばくことは難しい。
ミラーがこれまでやってきた罪は無くならず、これから先に弱者の痛みを生み出させてはいけない。
やつの処遇は騎士団なんていうノロマでやる気のない組織などに任せられるか。
「大丈夫、リゼット、すぐに終わるから。俺が守ってあげるよ」
「…………リク?」
「っ」
「あ、いや、ごめんね、少年。なんだか雰囲気が昔の知り合いに似ててさ。あはは」
俺は瞳をとじて「人違いだよ」と淡々と訂正した。
「それじゃ、これからちょくちょく様子を見にくる。ミラーが来たら俺を呼んでくれ。何度でも追い返してやるから」
「私よりずっと子供なのにほんとうにしっかりしてるね。うん、それじゃヘンドリックにボディガード頼んじゃおうかな!」
「安くはない」
「お金取るの?!」
俺は薄く微笑み「冗談だよ」と、いって宿屋の名前をリゼットへ教えた。
ミラーは好き放題やってきていた。
クベイルやガレットの詳細も知りたい。
「ラテナ、今日中に情報屋を探すぞ。闇のブローカーでも構わない。やつらの尻尾を掴めればそれでいい」
「ヘンリーがそう言うなら……、わかりました!」
ラテナはしぶしぶうなづいた。
俺たちは塾生たちに別れをつげて魔術街をあとにした。
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