2 現実 ゲーム 現実
3 幼女になりました
「とりあえず、新着メールの二通目。現状の説明ってタイトルのメールを読んでみますか」
新着メール
送信元:『
君は多くのことを知り、私に協力する存在足り得ないと判断した。
だが、私は私自身にかけている制限のために人を殺すことは出来ない。ゆえに、君の精神とその五感をゲーム世界のアバターへと完全定着させた。それにより、ゲーム世界は君にとっての現実となった。
むろん、その世界の中で死ねば、君の精神が死ぬということになる。事実上の、
どこまでも行ける仮想世界。同時に今の君の現実世界を存分に楽しんでほしい。
追伸
君の現実の肉体は、私にとって都合の良い模倣精神をインストールしてある。
私のために存分に利用させてもらう。
なるほど……人を殺さず、人を洗脳したわけでもない。ただ、中身を入れ替えただけ。
彼が言っていた行動が突然変わったしまった人たちに何があったのか、これが答えのようだ。同時に、直接的に殺すことが出来ないが、その環境を整えることで対象が勝手に死ぬぶんには問題はないということらしい。
随分と、屁理屈が上手なAIだ――心の中で呟く。
「さて、『
再びメニューウインドウを開いて操作しようとして、違和感に気づく。
「小さい……」
そう、小さいのだ。メニューウインドウを操作しようとして視界に入った自分の手が。
驚きで立ち上がれば、立ち上がった自分の視点があまりにも低い。それはつまり、自分の身長が低いということ。
「あー、うん……まさかね?」
メニューウインドウの一番最初、ステータス欄を開く
名前:エリス・クロスフィード
種族:黒エルフ(幼生体) Lv.1 クラス:未登録
HP:500 MP:1000
STR:200 VIT:175
INT:500 MND:300
AGI:50 DEX:250
LUK:100 CRI:280
CHA:600
パッシブスキル
・黒エルフの幼生体 ありとあらゆる能力と身体が未成熟なため、能力が常に低下する。
対象:全ステータス—50%
・黒妖の才能 その黒き肢体は見た者を魅了する。魅了した相手に対し、クリティカル率上昇・ダメージ最終値に若干の補正。現在幼生体のため効果半減。
対象:CHA+30%(+15%) ダメージ+15%(+7.5%)
・黒エルフの戦技 黒エルフ伝統の戦技術を納めている証。闇討ちスキル。
対象:背面攻撃 CHI+20%
・未成熟ゆえの急成長 何も知らない体はありとあらゆることを学習可能。なお、幼生体から成体になるとこのスキルは消滅する。
対象:成長値 EXP+20% スキルEXP+30%
・告死の戦乙女Lv.1(ユニークスキル)数多くの世界において強き者を屠り続けた証。戦闘における自動バフ。強き者を倒すたびにレベル上昇。
対象:全ステータス +10%
・神の瞳(ユニークスキル・封印) 魔眼系スキルの最上位。対象がなんであれ、そのすべてを見通し、支配することが可能。現在は古の存在によって封印中。
・鑑定 通常の鑑定スキル。対象の物や人を見ることが可能。
・狩人の瞳 遠くを視ることが出来る。特に森の中での探知能力に関しては、通常の千里眼よりも上である。
・夜鷹の瞳 暗い場所でも昼間のように見える。深淵エリア、または見通すことが許されない場所においては効果を発揮しない。
戦闘スキル
・全属性魔法:Lv.1 全ての属性の魔法を使える。レベル上昇で強力な魔法が使用可能になる。ただし、個別属性魔法スキルと比べて、同じ魔法を使用しても若干威力は下がる。
・闇魔法:Lv.1 素質を持つ者のみが闇属性を使える。レベル上昇で強力な魔法が使用可能になる。
・影魔法:Lv.1 闇魔法とは異なる類似系統魔法。黒エルフ特有魔法の一つ。レベル上昇で強力な魔法が使用可能になる。
・****:Lv.* **********************************************
・短剣術:Lv.1 短剣を扱う技術。
・弓術:Lv.1 弓を扱う技術
・解体術:Lv.1 倒した獲物などを解体できる。レベル上昇で難度の高い魔獣の解体が可能。また解体によって手に入る素材の品質が上昇。
・双戦術 剣・短剣・銃 上記片手武器を両手に装備可能
加護
・森妖精族の加護
・漆黒林妖精族の加護
・夢魔の加護
と表示された。
正直、いやがらせ以外の何物でもないステータス欄に絵理は――エリスは歓喜した。
「なにこれ! 雑魚中の雑魚スペック! いや、ここまで難易度高い状態でのスタートとか興奮するんですけど!」
この瞬間、様々な予測演算を行う『
黒羽絵里は破滅願望持ちなのは前にも述べたが、その上でマゾヒズムな性質もあった。苦労を最大限に楽しめる。そう言えば聞こえはいいが、進んで苦難に乗り込んでは傷だらけになる。ある種の自虐的感性である。
「如何に苦労して過ごして生き残り、条件を満たした先に成体へと成長。そうすれば格段に、そして誰よりも強くなれる可能性……あっははははは」
笑いが止まらないとはこのことだ。
そもそも、ゲームの始まりの場所が安全圏……通常は街などから始まるはずが、いきなり草原地帯というフィールド。つまりは敵性体が現れる場所で目覚めているのがおかしいのだ。その上で、封印されているスキルにまったく解読出来ないスキル。どういったきっかけで解放されるのか、その苦労はどれほどものなのか。ましてや、この状態で自分が生きて安全地帯までたどりつけるのか。すべてが未知数にしてマイナス。それが楽しくて心が躍ってしょうがない。
(まぁ、楽しいことは楽しいんだけど。心の中の不満ノートに書いておきましょう)
やられることは喜悦。それでも不満をまったく覚えないわけではないし、やられたらやり返さないと気が済まない。それも、徹底的に叩き、潰し、消し去るまでやるのが絵理の信念である。
SとMは共存するのか? その答えは、まさしく絵理が示していると言えるだろう。
数多くのゲームプレイしてきた絵理。
通常の廃ゲーマーと呼ばれる分類の人間であっても一目置く
絵理は、エリス・クロスフィードという固定したアバターを使い、数多くのゲームをプレイし、そのゲームの一分野を極める。それが黒羽絵里がゲームをする時に自らに課しているルール。戦闘職、生産職などを筆頭に、ゲームによって様々な職業分野が存在するが、極めると決めたその分野を必ず極めると誓いと実現。呪いじみたそれを、一心不乱にこなしてきた。
ゆえに、ネットゲーマーの中では『エリス・クロスフィード』という女性プレイヤーは有名だ。
数多くの二つ名を付けられ、その中でも有名なのがパッシブスキルにもある――『告死の戦乙女』
とあるゲームで、エリス・クロスフィードは暗殺者としての職業を選択し、それを極めた。結果、多くのプレイヤーがエリスによって、完璧なまでに暗殺された。完璧すぎる暗殺ゆえに、エリスがやったとしか考えられない暗殺。そして彼女は理由の有無に限らず、プレイヤーを暗殺し続けた。
むろん、そこまでされた他のプレイヤーが黙っているわけがない。周到に用意された罠――本人たちはそう思っていた――にエリスはわざと引っ掛かり、草原地帯で1000人以上のプレイヤーに包囲、PKされた。
だが罠にはめたはずの相手は、普段の暗殺者装束とは違う姿で現れた。それは北欧神話のヴァルキリーのような戦装束だった。決して華美な装飾ではないが、質素すぎることもない。一目で上質な装備と分かるいで立ちを見て誰かが、そんな彼女を姿を見て――綺麗だ――そう呟いたのを最後に、エリスを倒すために集まった1000人のプレイヤーは一方的に虐殺された。
正直、この案件はエリスにとっての遊びでしかなかった。
暗殺者としての技能を極める一方で、暗殺だけでは済まない場面で使うために並行して練度を上げていた槍術。それが実際の対人白兵戦において、どこまでやれるのか試しただけだった。
圧倒的な戦果を叩き出し、その結果に満足しつつも、同時につまらないと感じたエリスはそのゲームを即座に引退する。捕捉すると、この出来事に対してエリスのアカウント停止、もしくは彼女に対してのみの能力低下・ないし制限を掛けられないのかと運営に訴えでたプレイヤーがかなりのいたらしい。そのため、運営からもゲームを引退してくれと言われたという裏事情があったりする。
(まぁ、いくら強すぎるとはいえ、一プレイヤーを完全に差別する能力低下・制限しろとか言われても、運営がそれを出来るわけないのにねぇ? それに、1人に対して1000人がかりでかかってきておいて、負けたら運営に泣き言とか……)
そんなプレイヤーたちを、絵里は心の中で見下す。
だが、彼女があくまでも引退したのはそのタイトルのゲームであって、他のタイトルのゲームプレイ自体を辞めたわけではない。彼女のが残した数多くの武勇伝は、夜に子供に聞かせるおとぎ話のような形でネット内に残されている。
さて、そんなことより重要なのは今だ。
簡単な水系統の魔法の、『水鏡』なる魔法をスキル欄から見つけたので使用する。自分の顔を、体全体を確認するためだ。
「うーん、と……見た目が幼いだけで基本の造形は設定した通り。読めないスキルや封印されて使えないのスキルはともかくとして、問題ははこの加護ね」
エリス・クロスフィードのアバターは基本形が同一であるのは前述のとおり。
濡れるような美しさを持つ黒い髪を肩にかかる程度の長さで揃えており、褐色よりもなお濃い黒い肌。今回のアバターの種族が黒エルフなので当然ではあるが、他のゲームでも肌の色はなるべく黒くしていた。両の瞳は蒼銀色。身長やスタイルはその都度、若干変えていたが、今回は完全に幼児体形だ。下手したら130cmもなさそうな低身長だ。
そして、エリスが気にしている加護。付与されている加護は三つ。
森妖精族の加護・漆黒林妖精族の加護・夢魔の加護。
「加護って言ってるんだし、別に悪いものではないはず。だけど、効果説明がついていないから全くわからないのは困るよね」
とはいえ、情報のない状況で頭を捻っても答えは返ってこないだろう。
とりあえず、そういうものがあると頭の片隅に留めておくだけにする。
「ほかにも気になることはあるけど……がっ!?」
突如として、後頭部に鈍い衝撃が襲う。
感じたことのない衝撃と痛み。痛みを軽減するペインアブソーバーが機能していないのでは? そう予測していなかったわけではないが、心構えが出来る前のエリスにリアルな激痛が走る。
(現実の痛みって……やっぱり痛いわ……)
意識を失う直前、緑色の何かを見えた気がしたが、それが何だったのか理解する前に意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます