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「それで、そっちの成果はどうだった?」
「こちらもないですねー。てか、護衛を護衛対象から見えないところで単独行動させて、自分は戦闘って本当におかしいんですからね!!」
何かあったら私が殺される――叫んでいるイリスを生暖かーい目で見てやる。某青い猫型ロボットがしていたみたいに。実際、監視対象に見つかって返ってきただけでも処刑されかねないのに、直接傍につけられているイリスが目を離している隙に何かあったら? それは確実に処刑だろう。うんうん、同情するわー、他人事だけどね。
とりあえず、メニューウインドウのマップシステムを起動させる。
現在地を示す赤い点と、山のいくつかにマーキングしたフラッグマークが映し出される。
「やっぱり、この方角にはないと考えるべきかな……。そうすると白鍵狐と黒煙尾は山とか山にあるもの守ろうとしてるんじゃなくて、この山にいる存在に人を近づけない為の存在かな?」
マップシステムにマーキングされた場所。そこにはなんと、『蒼い』鳥居が見つかった場所だ。おまけに、鳥居の周りには同じく蒼い、現実世界の菊に似た花が咲いていた。鳥居を含めた周辺は一面真っ青になっている、ある種の幻想的な光景だった。
現在発見している鳥居の数は7つ。鳥居の色が蒼い、というのは中々珍しい色だし、そんなものが複数あるのがとても気になったのでマップにマーキングし、そこにある法則にも気づいた。
「あくまでも、山の全方位じゃなくて裏鬼門と呼ばれる南西の方角を覗いた場所に設置されてる。そして、対になる鬼門の北東の方角にあった鳥居が一番大きくて、そこから離れるにあたって鳥居のサイズも少しずつ小さくなる。島の中央部、北東の方角から来たモノを入れた後、島の外へと追い出すためにわざと裏鬼門の南西側。海しかない方角には鳥居を設けていないとも取れるけど……うーん?」
「というか、鬼門とか裏鬼門ってなんですか? 私は初めて聞いた言葉ですけど……」
エリスの呟きに対して質問してくるイリス。
まぁ、アーサー王伝説当時のブリテン島に八卦の概念があったとは思えないし、日本だって安倍晴明。あの有名すぎるとも言える陰陽師の存在のおかげ広まった知識でもある。もっとぶっちゃけてしまえば、所詮は方角を示した風水学であり占い。知らなくても本来はまったく問題はない。ただし、MMOゲームなどのクエストが絡む可能性がある場合などは確実に意味がある。
「日本的に言えば鬼――この島でいうと悪魔か。まぁ、そんな存在が出入りしてくる方角。つまりは不吉な方角を示す言葉ね。裏鬼門は……そうね、勝手口みたいなイメージかなぁ? まぁ。鬼門と同じくそういう存在が出入りできる方角のことよ」
「はぁ」
そもそも、鳥居が作られる役割を考えるとエリス自身の推測もおかしいのだ。
鳥居とは、神聖な山と俗世を分けるための印であり、同時に不浄な存在の侵入を防ぐために設置される。それゆえに選ばれる色も赤ではなく朱色と呼ばれる特徴的な色で塗られていることが多く、朱色の役割もまた不浄な存在に対する防衛要素である。
ちなみに、朱塗りの鳥居は稲荷神社系に多いとされていたはずで、朱色とは全く反対の蒼色の鳥居がある山に稲荷をイメージさせるモンスターが出現することも意味深だ。
もう一つの考えが日本にはある。
それが鳥居周りに咲いている蒼い菊……に似ている花に繋がる。
日本において有名な花を上げる場合、桜を上げる人が多いだろう。しかし、本来の日本で上げるべき花はもう一つ、それが菊の花だ。一応、中国から伝来した花……だったような気がするのだが、鎌倉時代の後鳥羽上皇が菊の紋章を気に入ったことで『菊紋』自体が皇室の家紋となった。菊花紋章と呼ばれるそれは、日本国憲法書にも使われている。世界大戦中の日本の戦艦にもその紋章はつけられていた。桜と同じか、それ以上に日本人の歴史に菊は縁が深かったりする。
そして、菊に限らず花には色に合わせた花言葉が存在するが、蒼い菊にはない。より正確には青と紫の菊であり、青と紫の菊は人間による遺伝子改造で生み出された後天種であり、存在しないものでも作り出せるという意味で『希望』という言葉が関連付けられることはあっても、昔からの花言葉は存在しない。
お彼岸やお盆の時に備えるのは菊であり、入院している人に送ってはいけない花も菊であるという考えが現代日本にはあった。
本来の菊の花言葉を考えると、別に入院している人間におくってもまったく問題ない。菊の花言葉は『高貴』『高潔』『高尚』から始まり、『素晴らしい友』『真実』『上機嫌・元気』『長寿』などであり、菊自体はまったくもって不吉なものではない。唯一痛いのは黄色の菊の花言葉『敗れた恋』ぐらいではないだろうか? もっと詳しく調べていれば他にも出てきたのだろうが、エリスが知っている知識としてはこの辺りが精々だ。
菊が忌避されるのは、葬式や彼岸の時期に供えられる花のイメージが菊であり、死を連想させると同時に隣り合わせに存在するがゆえに良いイメージを持たれなくなったせいだと思う。しかし、先述の通り、皇室の家紋にもなるほどに『高貴』な花なのだ。亡くなった人に向けて、最大限の敬意などを払う意味もあって菊の花が選ばれているだけなのである。
(まぁ、現代の日本人は『死』へのイメージ連想を特に嫌うからなぁ……ちょっとあれは言いがかり臭いよね)
そして、話は最初の蒼い菊へと戻す。
本来存在しないはずの色の菊。仏教での六道輪廻の修羅道の色であり、陰陽師で有名な五行相克。それにおいては水を指し示すと同時に陰中の陰。現代風に言うならば闇や暗黒などに属する色を示すのにも使用されている。夜の海って怖いよねー。
一説には、蒼い菊は現世の花にあらず。あの世の花であり、それが現世で咲いた時、あの世とこの世が結ばれて良くないモノが現世に来るなんて話もあったりする。
――本来の浄化、破邪の朱色ではない蒼い鳥居と周辺の蒼い菊。
上記の考えるを踏まえ、思いっきりやばいモノを招き入れている。もしくはすでに山の中にいる。そう考えるのが妥当だろう。
とはいえ、この考えすべてが状況推測だ。エリスが持っている知識を総動員して、無理やり関連付けているだけの妄想だと言われればそれまでだ。事実、半年もこの蛇尾の山に通っているのに、特別なモンスターやクエストフラグは立っていない。
とまぁ、色々と知識のひけらかしと考察を重ねたわけだが、それよりも先にやらなければならないことがある。それは……。
「さて、イリスちゃん。お願いがあるんだけどいいかしら?」
「……どうせ、拒否権なんてないじゃないですか」
精一杯のエリスのぶりっ子に、少しだけ動揺しながらも憮然として答えるイリス。あれ、ひょっとしてまた魅了スキルの影響ばらまいたかな。まぁ、いいか。猫耳は好きだし向こうから襲い掛かってくるなら大歓迎。ふふふふっ……。
「実はね、今倒したのとは別の白鍵狐と黒煙尾をちょっと前に倒したんだけど……」
「だから、なんで、私がいないときに、一人で戦ってるんですかーーーー!」
(え? 調査に行ってもらったイリスをただ待ってるのも暇だったし、この二体のモンスター倒す。それが目的でこの山に来てるんだから当たり前じゃない? 私がおかしいの?)
周りへの自分の行動がどのような影響を与えるのか。それを一切考慮していないエリスが首をかしげる。
「まぁまぁ、それでその時に……実は白鍵狐から二回程攻撃喰らっちゃってさ。実は今、デバフが20%ほど乗っかってまして」
イリスが頭を抱え込んで、そのまま地に埋まりそうなほどに地面へとその額をつけている。もはや叫ぶことも暴れることもしない。
「というわけで、下山するまでの護衛よろしく」
「ちなみに、HPはどれくらいですか?」
「ん-と、2割切ってるね」
魔力特化紙耐久。
即死しないように防御の魔法を重ねまくってるおかげで死んではいないが、死にかけにはなっているのだった。
ここから下山するまでおよそ30分。イリスは心臓が鷲掴みにされているほどの緊張感を味わいながら護衛した。
心の中で、この頭のおかしい仮の主にどんなにきつく言われても今度からはそばを離れないようにしようと深く誓いながら。
理想郷からはいまなお遠く 量子演算コンピューターが発展しすぎた結果、肉体を奪われてVRMMO製のデスゲームに放り込まれました 大熊猫小パンダ @bosenicht69
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