6 人類の最後の生存圏。聖都キャメロット。でも私は見られない!!



 結局、周りに散々脅されていたにもかかわらず『龍の選別門』は全く問題なく通過できた。

 一瞬、門をくぐりぬける時に、筆舌にしがたいが悪い感じはしない違和感が体全体を包み込む。恐らくは透視に探知など複数の魔法によるチェックを受けたせいだろう。



 門をくぐり都市の内部に入るとすぐに、エリスの外見は無駄に目立つことと、なにより魅了のスキルを垂れ流しているので馬車から顔を出すことすら禁止されてしまった。せっかくの街並みを見たかったのは本音だが、これ以上の面倒が増えるのも好ましくない事態だ。

 今は自分の欲望よりも面倒を避けることが優先。仕方のないことなのだと割り切って、荷台の中で大人しくすることにする。



 だが、騎士や戦闘職の人間が移動に使う何もない馬車の中では暇になるのは当然であり、自分なりの多少の工夫をしても、暇なものは暇になる。

 馬車自体もかなり大きい。片付ければ10人くらいの人間が乗れそうなくらいには荷台の中も広い。必要な物資や装備などが置かれているので多少の圧迫感はあるが、幼児体形になったエリスが寝っ転がっても余裕ありまくりである。


 

(あーぁ、異世界……じゃなくてこのゲームの世界の都市見たかったなぁ。フィールドよりも、町や村、都市なんかは製作陣のこだわり度合いとか、どの時代の建築物を参考にしているとか。そういう製作のくせ・・のようなものが出るから、今後のこの世界の人付き合いの参考にもなるのに……)



 多くの一般ゲーマーが、新作ゲームを始めるとフィールドの美しさや広大さに目を取られるであろう中、エリスは人が住んでいる場所を、生活圏と呼ばれる場所を最初に注視する。

 大まかな年代や生活様式、それらを把握する手段は都市部を見た方が手っ取り早いのである。同時に、それは世界間に、直接的に言えば世界に会わない生活圏を作っているゲームは、設定構想の時点で破綻していると思っている。



(ぶっちゃけ、ハードや製作環境の向上がすごい今の時代。そんな現状のゲームでフィールドグラフィックが綺麗とか当たり前でしょ……。むしろ、それ以外のどこにこだわりがあるのかとか、ストーリー展開の複線はとか、そういう内容を楽しむための細かい所を見なさいよ!)



 黒羽絵理くろはねえりは、昨今のゲームに対してそれはもう深く強い不満を持っていた……。



 グラフィックが綺麗になりました。登場人物がリアル等身で登場し、動くし人気声優さんの声で喋るよ! 等々、どちらかというと映像やシステム方面におけるレベルが上がったことばかりの宣伝しているものが多い。だが、それゆえにゲームを楽しむうえでもっとも根本的なストーリーを蔑ろにする作品が多すぎると! もっと言えば、グラフィックのレベルを2つか3つくらい落としてもまったく問題ないくらい綺麗なる環境なのだから、その分で空けた容量で内容をもっと充実して、長大かつ濃厚なストーリーを作れと! 初めてプレイしたRPGゲームで流した涙とその感動を与えてください! あとMMOですらないただのRPGなのに無駄な素材集めなどのやりこみ要素を充実させるのはただの時間稼ぎにしかならないだろうが! 物語で楽しませろと!!!!

  


 ……失礼。なにやら私の中の変なスイッチが入った模様です。冷静に、そう冷静に……。作る側ではない人間があまり口を出しても碌なことにならないと言うし、我慢よ我慢。


 

 そんなことを、目を瞑りながら考えていた。

 周りの3人がそれぞれの感情はひとまず置いておいて、ひたすら難しい顔で唸りながら荷台の中で転がりまわる黒エルフの幼女にどう対応したらいいのか悩んでいた。なんてことをエリスは知らない。



 と、そこで軽い衝撃と共に馬車が止まる。



「エリスさん、王城内に入りましたので降りていただけますか」



「あー、はいはい」



 考えごと、という名の自分の世界に入り込んでいたのでどれくらいの時間が経過していたのかは知らない。だが、聖都の中央に存在する城に到着する程度の時間は経過していたらしい。

 テレーゼの声に反応し、体を起こす。



「あと、その後ろの壁にかけてる麻のローブをかぶっておきなさい。効果がどこまであるかわからないけど、道中の空いた時間に能力阻害の魔法式を打ち込んであるし、そうでなくともあんたを直接見るよりは魅了の影響が少なくなるはずだからね」



 あくまでもこれはついで! ……そう言わんばかりにマキアナが付け足してくる。

 言葉はぶっきらぼうだが、こちらを心配する感情がなんとなく感じられる辺り、彼女もまた根っからの悪人ではないのだろう。古き良き時代のツンデレ臭がする。



「ありがとう」


 

 エリスも無駄に敵意を振りまくようなことはしない。むしろ、善意にはしっかりと善意で返しますとも。

 振り返って全力のスマイルでお礼を告げる。マキアナが指で示した方向の馬車の壁に掛けられていたローブを手に取って羽織る。フードは少し用心して目深に被り振り向くと……マキアナにテレーゼ、ついでにヒースクリフまでもが固まっていた。

 


(おっと。幼児の全力スマイルは破壊力が高すぎたか……)



 謎のスキル? の『黒妖の才能』とは別にして純粋な力は、エリスの影響を完全無効化していたはずのテレーゼまで固まっている辺り、単純な可愛さが強すぎたようだ。子供がする不意打ちの全力の笑顔って可愛いよね。


 

 その後、3人が再起動するに3分ほどかかった。


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