★★★ Excellent!!!
誰ひとり『正しさ』を捨てることはできない 和田島イサキ
民衆の反乱により滅亡の危機に瀕する王国の、その第一王女の半生を綴った回顧録。
というか、思い出話というのが正確かもしれません。偶然知り合った迷子の少女に、おとぎ話という体で語られる物語。舞台設定としてはハイファンタジーで、いわゆる剣と魔法のそれというか、ワクワクできる要素もしっかり詰まっています。
内容はなかなか骨太で、国家規模の動乱を王女の目線から描いた物語です。民衆と王族の階級闘争、あるいは互いの正義がぶつかり合うお話。一見、主題の部分をストレートにぶつけてくるようにも見えるのですが、でもこれがなかなかに曲者というか、読んでいてどうしても〝ひっかけ〟のようなものを警戒せざるを得ない、視点の罠を駆使した書き方が特徴的です。
主人公である王女ライラと、その親友であり護衛役でもある魔術師のメル。すべての物事が完全にこのふたりの視点を通してのみ書かれているため、ほぼ一方の偏った言い分を聞いているにも等しい状況。ましてや王族ということもあり、どうしても脳裏にちらついてしまう「もしかしてダメな為政者と化しているのでは?」という疑念。いわゆる叙述トリックあるいは〝信用できない語り手〟の変奏というか、こういった手法で読み手の側からの積極的な考察を誘発する、その罠にまんまと乗せられた感じです。果たして正義はどちらの側にあるのか? いやそれぞれに異なる正義があるのですけれど、でも自分だっ…
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