第6瞬「バックマン」

 この話は怖い話かどうか、聞き手によって分かれると思います。

 ちなみに当事者の私としては、怖さもありますがそれよりも気味が悪いです。


 これは、私が高校の時に体験した話です。




 高校時代、演劇部に所属していた私は、演劇に必要な基礎体力作りとして週に二、三回程度、午後9時頃に家の近くを走り込んでいました。

 いつものコースを走っていると私の少し先を走る人の後ろ姿が目に入りました。


(ん?人?)


 普段から人気ひとけのない道なので少し警戒しましたが、先を走っているならば私に対して何かを出来るはずもないため、特に問題にはせずにそのまま走っていると、なぜか私はあっという間にその後ろ姿に近づいてしまいました。


(あれ?遅くな…!!!)


 あと、二、三十メートルという距離まで近づいてやっと私は気がつきました。

 それは、私だけが前の人の後ろ姿に近づいていたのではなく、私とその後ろ姿がいました。


 私と同じ方向へ走っていると思った後ろ姿の人は、私とは逆方向へに走っていました。


 後ろ向きで歩くことも危険が伴うほどの暗さにも関わらず、その異様な姿に、私は何も対応が出来ずにその場で立ち止まってしまい、気がついたときにはすれ違っていました。

 私とすれ違ったその人は何事もなかったかのように私の後ろの方向へ走っていき、足音は遠ざかっていきました。


 恐怖もありましたが、それよりも得体の知れない物を見た気味の悪さに私はすぐに家に帰り、家族にその事を話したものの、父も母も弟も誰もが私の見間違いだと笑って信じてくれませんでした。


 しかし、私は確かに逆向きに走る人を見ました。

 私は勝手にと名付けて学校でも話をしましたが、やはり真剣に取り合ってくれる人はいませんでした。

 私は十年以上経った今でも後ろ向きに走るその人の姿が目に焼き付いています。

 あれは何だったのでしょうか………


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