第5瞬「こっくりさん・奇」
皆さんはこっくりさんって知っていますか?
簡単に言うと、素人向けの占いみたいなものです。
云われなくてもこっくりさんくらいは知っている?
では、黒いこっくりさんは知っていますか?
これは、その名の通り、黒い紙を使って行うこっくりさんです。
主なルールは通常と同じです。
黒い紙に白いペンで必要な文字を書き、赤い鳥居を書き込む。
昔なら修正ペンや白い絵の具と言ったところですかね?
さらに昔なら、赤い液体で全て書く、要するに血を用いると言うのがこの黒いこっくりさんです。
こちらは占い程度では済まないことが多いのでやらないことをおすすめします。
ちなみに、黒いこっくりさんは参加者はそれぞれ一つずつ十円玉や指を使いますので、紙の作り方次第では参加人数が十人程度まで増えても問題はないです。
こっくりさん、
これからこっくりさんに
では、どうぞ…………
今から何十年も前、こっくりさんという遊びがどこからともなく急に自然発生し、その噂は瞬く間に全国に拡がり、あっという間に大ブームになりました。
この時の第一次こっくりさんブームは本当に凄まじく、その時に様々なことが起きたこともあり、こっくりさんは全国の小中学校で禁止されるほどの社会問題となりました。
そして、それから時が経ち、何度目かのこっくりさんブームが来ていた時、私の通っていた中学校では、私の一つ年下の女の子達がこっくりさんをやっていたら一人が急に叫び出し、教室の机をなぎ倒すなど散々に暴れまわった挙げ句、三階の窓から飛び降りて両足を骨折するという事故があり、直ちにこっくりさんは禁止になりました。
この事件は当時、第一次こっくりさんブームの時のように全国紙ではないものの、地元紙にも掲載されて、私の地域では大問題になりました。
しかし、子供というのはやるなと言われれば言われるほどやりたくなるもので、私達は下級生が悲惨な目に遭ったことも他人事のように、先生や親の目が届かない場所でこっくりさんをやっていました。
これは、その女の子の飛び降りた事故から約一ヶ月後、私が中学校二年生の夏に起きたことです。
「こっくりさん、こっくりさん、お
スススス…
いいえ…
今のが五度目でした。
その日は占いが終わった後にこっくりさんが帰ってくれませんでした。
「うう…なんでよお…こっくりさん……おねがいだからかえってよお……」
初めての事態に運動部に所属していて明るく活発な
「こっくりさん、こっくりさん、お
スススス…
か、お、り…
「イヤっ!!」
かおりとは、こっくりさんに問い掛けた本人の名前でした。
その日は私と
スススス…
「えっ!」
私達三人が誰も問い掛けていないのに十円玉が動き始めました。
百合も香も何が何だかわからない恐怖からか、下を向いてしまい、今にも十円玉から指を離してしまいそうでした。
「二人とも!指を離しちゃダメ!絶対に指を離さないで!」
私のこの声に二人は顔を上げずにそのまま頷きました。
その理由は、私が一つ年下の妹から聞いた話を二人に話していたからで、その話とは、私の妹がその時にこっくりさんをやっていたという当事者の一人から聞かされた話で、その子が暴れだしたのはこっくりさんの途中で十円玉から手を離した直後だったと言う内容でした。
普通ならば、妹が友達でもない同級生から聞かされた話を鵜呑みにするのもおかしな話ですが、実際に一人の女の子が大怪我をしているので、二人も私もこの話を嘘だとは思えず、絶対に途中で指だけは離さないようにしようとやる前から話していました。
特に、三人のうちで一番こっくりさんをやった経験が多い私は、目の前の現象の怖さよりも
スススス…
ゆ、り、と、く、み、は、ゆ、る、す…
「!!!」
くみとは、私の名前の
スススス…
ゆ、り、と、く、み、は、ゆ、る、す…
スススス…
ゆ、り、と、く、み、は、ゆ、る、す…
スススス…
ゆ、り、と、く、み、は、ゆ、る、す…
こっくりさんは合計で四回、百合と私は許すと動きました。
なぜかこっくりさんは四回とも香だけをそこに含めませんでした。
顔を伏せたままの百合と香は、その時こっくりさんの示した内容に気がついていませんでした。
「こ、こっくりさん、こっくりさん、それはどうしてですか?こっくりさん、こっくりさん…」
スススス…
私が、怖がっている百合と香にわからないようにこっくりさんに質問すると十円玉が動きました。
か、お、り、の、つ、く、え…
香の机。
こっくりさんは確かにそう示しました。
私は意味がわからなかったものの、何とかして香もこっくりさんに許してもらえるように、質問を続けました。
「こっくりさん、こっくりさん、それはどういう意味ですか?こっくりさん、こっくりさん…」
スススス…
み、ぎ、の、ひ、き、だ、し、1…
右の引き出し、1。
私は、右側の一番上の引き出しの事だと思いました。
理由はわかりませんが、こっくりさんが香の机の右側の一番上の引き出しと告げていたので、そこで初めて私は香に聞きました。
「香、机の引き出し。右側の一番上の引き出しだって…こっくりさんが言ってる。」
「!!!」
私の言葉に香は明らかに動揺していました。
相変わらず顔は下を向いたままでしたが、私の言葉を聞いた瞬間に香が体をビクつかせていたことに私は気がつきました。
「香?」
「………こっくりさん!こっくりさん!お還りください!こっくりさん!こっくりさん!お還りください!」
急に香が大声で叫ぶように言ったので、私も百合も驚いて言葉が出ませんでした。
その時、また十円玉が動きました。
スススス…
か、お、り…
し、ゃ、し、ん…
な、お…
「もうヤメテ!!!」
そう言って香は十円玉から指を離してしまいました。
それに釣られて百合も離してしまい、私だけが十円玉に指を乗せている状態でした。
「…こ、こっくりさん、こっくりさん、お還りください。こっくりさん、こっくりさん、お還りください。」
私は、一先ずこっくりさんを終わらせようと一人だけでそれを繰り返しましたが、何度やっても十円玉は動かなかったため、仕方なく私はこっくりさんを勝手に終わらせることにしました。
「…こっくりさん、こっくりさん、今日はこれで終わります。こっくりさん、こっくりさん、今日はこれで終わります。」
こっくりさんを終わらせた私が二人を見ると、百合は自らを抱き締めるような体勢で震えたままずっと泣いていて、香はベッドの上に膝を立てて座り、布団を頭から被ってブツブツと独り言を呟いていました。
私は香に直ぐに戻るからと声を掛けて、香の家の近くにある百合の家まで百合を送りに行きました。
私は百合も心配でしたが、それよりも香の様子がおかしかったので、百合に香が心配だからと告げて直ぐに別れました。
その時、こっくりさんが百合は許すと動いていたことを伝えると、百合は少しホッとした様子で香と私を気遣っていました。
百合を送った私は、ほんの数分程度の距離にある香の家に戻る途中でこっくりさんの最後のメッセージについて考えていました。
かおり、しゃしん、なお…
それは、香、写真、そして、なおという人物の名前だと思ったときに、私は妹の同級生のことを思い出しました。
あのこっくりさんをして三階から飛び降りた女の子は、なおという名前でした。
それに気がついた私は、香も飛び降りてしまうのではないかと心配になり、急いで香の部屋に戻りました。
部屋に行くと、香は机の引き出しを開けようとしていて、右側の一番上の引き出しの鍵穴には鍵が差し込まれていました。
「!!!イヤっ!入って来んなっ!」
「ちょっ、香!落ち着いて!」
「来んな!イヤっ!イヤっ!」
「っ!…いっ……香やめて!痛いって!」
香は私の言葉も届かないほどに取り乱し、近くにある物を手当たり次第に投げつけてきました。
「いたっ…痛いよ!香!香!……!!!」
ほんの一瞬だけそれが止んで、私が香に近づこうとした時でした。
近くに他に投げられる物が無くなった香は、無意識に鍵を差し込んだままになっている右側の一番上の引き出しを開き、中身を投げつけてきていました。
「こ…これ……ねえ、香…これなんなの…」
「イヤっ!イヤっ!来ないで!私は悪くないッ!」
香が投げつけてきたもの。
それは、どう現像したのかはわかりませんが、例の飛び降り事故で新聞に載っていたなおという女の子の写真で、それは見るからに良くない写真でした。
雪が積もっている中でその女の子が裸で川に入りかき氷のようなカップアイスを食べている写真。
虫、タバコ、汚物などを食べている写真。
胸にマチ針を何本も刺されている写真。
学校のものと思われる便器を舌で舐めている写真。
それ以外にも酷いものがたくさんあり、その内の何枚かには香と一緒に香と仲の良い下級生の女の子が数人写っているものもあり、古いものでは下級生は小学生で香が中一の頃の写真もありました。
被害者の女の子は、命令されたのか、どの写真も泣きながら笑っているという苦悶の表情をしていました。
私は少し前に香がいじめに加担しているという噂を聞き、それを香に問いただしたことがありましたが、その時はそんな素振りを見せず、否定するどころかその時に一緒に名前が出ていた上級生を問いただすために上級生の教室まで乗り込んでいき、その上級生と掴み合いの喧嘩までしていた香が、まさかこんなことをしていたことは本当にショックでした。
後で聞いた話によると、なおという女の子が飛び降りた日も、香は下級生の何人かと一緒になってその子をいじめていて、長い間続いていたいじめに耐えられなくなったその子が、その場で自ら飛び降りたのを咄嗟にこっくりさんのせいにして、その子は退院したあとのことが怖くて本当のことが言えずにいじめの加害者の意見がそのまま通ってしまったというのが事の真相でした。
香とその写真に写っていた下級生達、その中には私の妹にこっくりさんの嘘の話をした子もいましたが、香は首謀者ということで女子少年院行きになったものの、下級生の女の子は転校しただけだったみたいです。
あの日、私達三人が
詳しくは書きませんが、被害者の女の子はこっくりさんが大好きだったために香とそのグループからいじめられるようになったからです。
これが、私が体験したこっくりさんの話です。
今回のこっくりさんに
こっくりさんはなぜ香さんを告発するようなこと示したのか、それはわかりません。
しかし、この話は結局、こっくりさんが原因で始まったいじめをこっくりさんが終わらせただけに過ぎません。
果たして、久美さんの言ったようにこっくりさんは正義ではないのでしょうか?
それとも、やはりこっくりさんは正義感から十円玉を動かしたのでしょうか?
では、また次回のこっくりさんの話をお楽しみに。
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