第3瞬「壁ドン」
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
夜中の三時を少し過ぎた頃、私の部屋は壁を叩かれる。
それは、私が寝ていようが起きていようが関係なく、一定のリズムでドン、ドン、と叩かれる。
その音は、私がこの部屋に引っ越してきた当日からずっと続いている。
何度かその現象が起きる時間に帰宅したことがあるが、部屋のドアを開けるとその音が無人の部屋に響いていた。
どうやら壁を叩かれることと私とは因果関係は無いらしい。
私は、引っ越してきてからすぐに始まったそのことに対し、一度も壁の向こう側に対して文句を言ったことはない。
それは言っても仕方がないことだと思ったからだ。
私は、
その音は鳴り止む時間こそ決まっていないが無視していると必ず勝手に鳴り止んだ。
人間とは面白いもので、初めは気になっていた壁を叩く音も、次第に日常となり、引っ越してから一ヶ月程度で特に気にすることもなくなった。
古い家が軋むのと同じように、それはそういうものだとしか考えなくなっていた。
引っ越してから半年ほど経ったある日、私がその部屋に引っ越してから付き合い始めた彼が、初めて私の部屋に遊びに来ることになった。
私の部屋に来る前から既に出来上がっていた私達は、そのまま彼が私の部屋に泊まることになった。
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
この日もやはりそれは起きた。
私も彼もそろそろ眠ろうかというときに始まったその音を彼は無視することが出来なかった。
「ああ?なんだこの音?隣のやつなにしてんだ?うるせーなあ…」
そう言っている間も音は止むことはなく、彼はイラついている様子だったが、私がそういうものだから気にしないでと言うと、彼も私の言うことに従い、そのまま引き下がってくれた。
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
「あー!もー!うるせえ!悪いけどちょっと文句言わせてもらうから!」
一定のリズムで何分間も鳴り続けていたその音に彼は我慢ができなくなり、今度は私が静止しても聞いてくれなかった。
ドン!ドン!ドン!
「おい!今何時かわかってんのか!ドンドンドンドンうるせえんだよ!次にそれやったら
彼は音のする壁を叩き、壁の向こう側に向けて怒鳴った。
すると、その音はすぐに鳴り止んだ。
「よし!それでいいんだ!このまま静かにしとけよ!おやすみな!」
彼は音が鳴り止んだことで納得したらしく、最後は壁の向こう側におやすみと声を掛けて、自身も再び横になった。
その時だった。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
向こう側から壁を叩く音は今まで聞いたことがないほど激しくなり、一切の感覚を開けずに鳴り続いていた。
「ふざけんなてめえ!すぐ行くからちょっと待ってろよ!」
これに完全に怒った彼は、私がどんなに静止しても聞かず、手早く衣服を着て玄関のドアを開けた。
「な……おい!どういうことだよこれ!」
玄関の外に出た彼はやっとそのことに気がついた。
私の部屋は角部屋であり、叩かれる音がする側の壁の向こう側には部屋がなく、端から誰もいなかった。
そのことを知ってしまった彼は怖くなったのか、急いで支度をして自分の部屋に帰ってしまった。
その音は彼が帰ったあとも暫く激しいまま続いていたが、いつものように放っておいたら勝手に鳴り止んだ。
暫くしてその彼とは別れたが、私は今でもその部屋に住んでいる。
彼があの時に文句を言った効果なのかわからないが、あれ以来、壁を叩く音がするのは毎日ではなくなった。
今でも三日程度に一度、同じ時間に壁の向こう側から壁を叩く音が聞こえているが、それはそういうものなのだ。
ドン…
ドン…
ドン…
ドン…
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