第8瞬「シャンプー」

 あなたは、シャンプーしているときに目を閉じますか?

 私は絶対に閉じません。

 なぜなら、私は子供の頃に変なものを見たからです。




 小学校低学年の頃、私はよくサユリさんという従姉妹のお姉さんのお家へ泊まりに行っていました。

 サユリさんは私よりの十数個年上で、その頃の私は、大学生で一人暮らしをしている優しくて綺麗なサユリさんに憧れていました。

 これはその頃に体験した話です。


「サユリお姉ちゃんの髪の毛ってすごく綺麗だよね?何かしてるの?」


「んーん、何も。普通にシャンプーして、リンスしているだけ。」


「うっそだー。私だってシャンプーとリンスしてるけどこんなしてないもん。」


「そっか。じゃあ洗い方かな~?ね?今から一緒にお風呂に入らない?洗い方教えてあげよっか?」


「うん!教えて教えて!」


 その日もサユリさんの家に泊まりに行っていた私は、小学校に入ってからは一緒にお風呂に入ることがなかったサユリさんと、久しぶりに一緒にお風呂に入るということで舞い上がっていました。


「いい?まずお姉ちゃんの洗い方を見せるからよく見ててね?」


「うん!」


「まず最初にこうやって―――」


 サユリさんは私の身体からだをシャワーで軽く洗い流した後、私を湯船入れてシャンプーのやり方を説明してくれました。


「―――これで終わり。あとはシャワーで泡を丁寧に洗い流すの。わかった?」


「うん!」


「じゃあ、次はリンスね。」


「うん!わかっ…!!!」


 私にシャンプーのやり方を教えたサユリさんがリンスのやり方を説明するため、シャンプーの泡を洗い流し始めたその時でした。


 目を瞑ってシャンプーの泡を洗い流しているであろうサユリさんの顔の正面に、

 それは、もしサユリさんが目を瞑っていなければ確実にそれに気がつき、目を合わせているだろうという位置に、今にも接触しそうなほどの至近距離でサユリさんの顔を見ていました。


「ん?どした?急に黙っちゃって。」


 シャンプーの泡を一通り洗い流したサユリさんが頭を上げて私に声を掛けました。

 サユリさんが頭を上げる少し前、恐らく目を開けたであろう瞬間にその女の人は消えました。


「………う、ううん。何でもない。サユリお姉ちゃん、リンスのやり方教えて。」


「ふふ、いいよ。リンスはね~、まずこうやって―――」


 私はさっき見たものをサユリさんに言えませんでした。

 あの女の人がサユリさんに関係する人なのかどうかはわかりませんが、それ以来、何度かサユリさんと一緒にお風呂に入ることがありましたが、あの女の人が現れたのはその時だけでした。



 私はこの体験以来、かも知れない、などと考えてしまうので、シャンプーするときには目を閉じずに頭を洗っています。

 泡が目に入ったときなど、やむを得ず閉じなければならないときも、片方の目だけは必ず開けています。


 あなたは、シャンプーをしているときに目を閉じますか?


 もし閉じているというのならば、目を開けた時にことを祈っています。

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