第21話 表裏者3

再び高遠城。




藤沢頼親「晴信にしてやられましたな。」




 藤沢頼親は高遠同様諏訪氏の庶流で諏訪湖の西に位置する上伊那郡福与城の城主。




高遠頼継「危うく諏訪の全てを奪われるところであった。」




 桑原城の戦いの結果、諏訪湖は東は武田。南は高遠。北は金刺。そして西を藤沢の4氏が並び立つことになったのでありました。




藤沢頼親「ただせめてもの救いは、高遠殿と晴信が共闘したことに諏訪の国人が気付いていないこと。」


高遠頼継「……本来であれば恥ずかしい話なのではあるが……。」




 武田晴信が本来、高遠頼継が攻め込むことになっていた諏訪に乱入したこと。しかもその戦いがわずか4日で決着したため高遠が動く前に諏訪頼重が甲斐へ護送されたことが。




藤沢頼親「その後の高遠殿の行動が容易なものになった。と……。」




 旧諏訪領の内、宮川から西のエリアを占領した高遠。本来であれば侵略行為以外の何物でもないのでありましたが……。




高遠頼継「主なき土地となり、いつ晴信が攻め入って来るかわからない状況下に立ち上がった諏訪一族のホワイトナイトと崇められることになったのではあるが……。」


藤沢頼親「晴信との約束は。」


高遠頼継「『諏訪の全ては高遠のもの』であった……。」


藤沢頼親「これで晴信の本心がわかりましたな。」


高遠頼継「確かに。たが如何せん晴信は強敵である。」


藤沢頼親「しかも諏訪に駐屯しているのが板垣信方。」


高遠頼継「まともにあたって勝てる相手ではない。とは言えこのままでは武田が我らを次の標的としてくるのは目に見えている。」


藤沢頼親「確かに武田は強い。それは否定せぬ。ただ晴信は失策を2つ犯している。」


高遠頼継「それはなんである?」


藤沢頼親「高遠殿との共闘であることを示す間もなくいくさを終えてしまったことが1つ。」


高遠頼継「もう1つは?」


藤沢頼親「頼重を騙し討ちにしてしまったことである。」




 諏訪頼重の身の安全を保障することが和睦の条件であったことは諏訪の国人全てが知っていること。にもかかわらず武田は頼重を自害に追い込んでしまった。その武田が諏訪に入って来た。そんな武田の言うことを諏訪の国人が聞くか否か?




高遠頼継「従わざるを得ない状況である故。恭順の意を示すことになるにはなるが……。」


藤沢頼継「そんな武田が占拠している旧諏訪領に高遠殿が武田を追い出すべく兵を出した場合。」


高遠頼継「諏訪の衆は武田と私のどちらに付くことになるか?……と言う事か。」


藤沢頼親「左様。武田もそのことがわかっている。奴らが諏訪よりも武田の傘下に収まったほうがメリットがある策を施す前に。高遠殿が戦時体制となっている。」


高遠頼継「今のタイミングを逃さず行動に移すべし。と言う事か?」


藤沢頼親「左様。」




 諏訪頼重が切腹して果ててからわずか2ヶ月で武田と高遠の関係は破綻。高遠頼継は武田占領下の旧諏訪領の解放を旗印に兵を挙げるのでありました。

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