担がれた神輿

第17話 京への道

山本勘助「殿!如何なされましたか?そのような難しい顔をされて。」


武田晴信「いやな勘助。これを読んでみよ。」


山本勘助「父上様からの手紙でありますな……。」


武田晴信「書いてあるだろ。今度京へ旅行するから金をくれ。って……。」


山本勘助「すっかり隠居生活を満喫されておりまするな。」


武田晴信「気楽な身分で良いよな親父は……。」


山本勘助「左様に御座いまする。」


武田晴信「あぁあ。俺も京に上りたいな……。」




 後日。




板垣信方「殿!!勘助より聞きましたぞ。」


武田晴信「なんの話だ?」


甘利虎泰「『とうとう決断為された。』と勘助が喜んでいましたぞ。」


武田晴信「いったいなんのことである?」


飯富虎昌「そんなとぼけなくとも良いのでありまするぞ。」


武田晴信「皆目見当がつかぬのであるが……。」


板垣信方「殿。とうとう決心されたのでありまするな。」


武田晴信「???」


甘利虎泰「京に上ると仰られたとか……。」


飯富虎昌「信虎様の頃にも一度。上洛の話があったのでありまするが……。」




 1527年、細川家内の内紛に巻き込まれ近江に逃れた将軍足利義晴。復権を目指し全国各地の勢力に助力を依頼。その報せは甲斐武田信虎のもとにも届けられたのでありました。




板垣信方「その時は甲斐国内外の争いに忙殺されていた故、叶わなかったのでありましたが……。」


甘利虎泰「信虎様の心は常に京に向けられておられました。」


飯富虎昌「今となっては懐かしい話でありまする。」


武田晴信「(勘助の奴……)。」


板垣信方「ところで殿。」


武田晴信「どうした。」


板垣信方「京へはどのルートで上ろうと考えられているのでありまするか?」


武田晴信「ん!?」


甘利虎泰「現状我が武田家が領しているのは甲斐の国のみ。京までの道のりはまだ遠くに御座います。」


武田晴信「確かに。」


飯富虎昌「現在の状況を見てみますと……。」




 地図を広げる。




板垣信方「上洛には3つのルートが考えられます。1つは、駿河へ南下したのち東海道を上る道。2つ目は信濃から東山道を西へ向かう道。そして最後の1つが同じく信濃から越後に出。船を使って日本海を進む道。以上の3つが御座います。」


甘利虎泰「現状どのルートにも障害が待ち受けております。」


飯富虎昌「もちろん将軍様の大義名分があれば問題ないのでありますが。」


板垣信方「殿が上洛される。と言うことは将軍の手伝いなどと言った生易しいものでは無く。」


甘利虎泰「自らが国のトップに君臨されるため。」


武田晴信「……(勘助。あとで覚えておれよ……)。」


飯富虎昌「自らの武でもって。と言うことになりまする。」


板垣信方「そうなりますとまず障害となりますのが。」


甘利虎泰「今同盟関係にあります今川と諏訪の両名であります。」


武田晴信「いや別に兵を通させてもらえば良いのではないのか?」


飯富虎昌「京へ上るには大軍。それも主力を率いなければなりませぬ。そうなりますと甲斐が手薄となってしまいます。今でこそ良好な関係にありますが、諏訪も今川もつい最近まで対立関係にありました。」


板垣信方「東には同じ関東公方管内の北条もおりまする。」


甘利虎泰「甲斐の安全を確保するためにも。遠征軍と甲斐との連絡路を確保するためにも。せめてどちらかを直轄化する必要がございます。」




 地図を眺め。




武田晴信「ここを通ることは出来ぬものか?」


飯富虎昌「赤石山脈は険しゅうございまする。」


武田晴信「尾張の織田が『ここにトンネルを掘る。』と言う話を聞いたぞ。」


板垣信方「赤石山脈は駿河の国。今川の領土。その今川と織田は今対立関係の只中にありまする由。実現には相当の年月を要することになると思われます。」


武田晴信「ここを通れば今の関係を維持出来るのであるが……。武田の力で……。」


甘利虎泰「釜無川の治水が最優先にございまする。」




 信虎の代になり本拠をそれまでの石和から西へ移動し甲斐中央の甲府を開設。甲府盆地全体の開発に着手するのでありますが、ここで問題となったのが釜無川の氾濫。大雨が降るたびに流路を変えるこの暴れ川の対応に長年。悩まされて来たのでありました。




武田晴信「……だよな……。」


飯富虎昌「甲斐の安定化。並びに殿の夢を実現させるためには富を蓄積しなければなりませぬ。」


板垣信方「ただその富の蓄積は甲斐からの収益では足りませぬ。新たな領土が必要であります。」


武田晴信「確かに。」




 改めて地図を広げ。甲斐南北を指さしつつ




甘利虎泰「どちらの道を選ばれまするか?」

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