第2話 後ろ盾あれど2

村上義清「さてこれで北信濃攻略に専念することが出来るわけであるが。」


家臣「後ろ盾となっている勢力が少々気になりまするが……。」


村上義清「越後の上杉に上野の上杉のことか。」


家臣「左様に御座いまする。」


村上義清「単独で相対することが出来るような相手ではない。」


家臣「ただ救いなのは越後の国内が安定して居りませぬ。」


村上義清「安定していないのはここ信濃も変わりないと思うのだが。」


家臣「その原因を作っているのは……。」


村上義清「……確かに。で、越後の情勢はどうである。」


家臣「はい。越後は今から10年ほど前に上杉房能から定実への代替わりがありました。ただその代替わりは必ずしも平和裏なものではありませんでした。」


村上義清「強制的なものであったと。」


家臣「はい。房能と定実は養子の関係。その定実を擁立した勢力によって。」


村上義清「房能は守護の座を失うことになった。」


家臣「そればかりでなく房能は越後に居ることが出来ず。兄を頼って落ち延びる途中。定実の追撃に遭い、その生涯に幕を閉じることになったのであります。」


村上義清「形はどうであれ、守護が一本化された。と言うことは越後が安定することになったのでは?」


家臣「……とはなりませんでした。房能が頼りにしようとした兄と言うのが関東管領である上杉顕定。」


村上義清「その顕定が報復の兵を挙げた。と……。」


家臣「左様。その結果、定実は越中へ逃亡。顕定が越後に入るのでありましたが……。」


村上義清「掌握することは出来なかった……。」


家臣「はい。」


村上義清「信濃同様越後も国が大きいからな……。」


家臣「混乱する越後の様子を伺っていたのが。」


村上義清「越中に逃げた上杉定実。」


家臣「その後、定実は佐渡、越後の支持者などと連携を図り顕定を駆逐。越後の守護に復帰を果たすのでありましたが。」


村上義清「世は下剋上。」


家臣「この騒動の原因となった人物がいます。」


村上義清「守護代の長尾為景。」


家臣「定実擁立からの一連の流れの中心的役割を果たした為景は……。」


村上義清「定実を蔑ろにするようになっていった。と……。」


家臣「操り人形にしか過ぎないことを悟った定実に。」


村上義清「為景のことを良くは思っていない勢力が近づいてくるのはある意味自然な流れ。」


家臣「定実の実家。上条家を始め、越後と言えども長尾為景の勢力が必ずしも浸透していない北部の揚北衆が為景追討の兵を挙げることになります。」


村上義清「ただこのいくさは。」


家臣「はい。定実は返り討ちに遭い、守護家としての上杉の地位は低下することになるのでありました。で。このいくさでのトピックスが1つあります。」


村上義清「なんだ?」


家臣「長尾為景の母の実家は信濃の高梨家。」


村上義清「我が村上と今まさに対立している。」


家臣「はい。その高梨家は越後の騒乱に巻き込まれています。」


村上義清「嫁ぎ先の長尾家に加担をしたと見るのが。」


家臣「はい。定実の越後復帰並びに守護家と守護代家との争いにも兵を越後に派遣し、為景の勢力拡大に貢献しています。」


村上義清「そうなると迂闊に手を出すことは……。」


家臣「……なのでありますが、今越後の情勢は長尾為景のもと落ち着いています。ただ守護・上杉定実は健在であります。その定実を利用しようと目論んでいる勢力もいます。その勢力は越後国内ばかりではなく……。」


村上義清「我が信濃の中にも……。」


家臣「はい。高梨と越後守護代長尾の関係は密であります。長尾は強大な勢力であります。このままですと北信濃は長尾の後ろ盾がある高梨の思うがまま。」


村上義清「それでは面白くはないな……。」


家臣「と思っているのは殿ばかりではありませぬ。加えて為景は朝廷から『信濃守』を拝領してはおりますが、彼の視線は信濃にあらず。」


村上義清「一時避難した越中や加賀に兵を出しているな。」


家臣「一向宗の勢いは越後にも及んでおりまする故。」


村上義清「……となると長尾の後ろ盾があったとしも高梨は……。」


家臣「安泰では御座いませぬな。」


村上義清「高梨と同じく越後と境を為している井上なども……。」


家臣「対高梨を意識すれば越後守護側に付くことになり、越後情勢に巻き込まれることになります。」


村上義清「その背後を我らは狙えば良い。と……。」


家臣「左様。(小笠原との縁組より)我らは背後を気にする心配はありませぬ故。」

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