紅の彼岸花を銀色の雨の滴が撫でる時、思い浮かぶは優しかった小さなあの人

 主人公が荒んだ時を刻む中、肉親のひとりが、その命を自ら絶った。
 その原因の一端が、遠からず自分にあると感じていたのだろうか……。今では、確かめる術を持たない主人公が、暫くぶりにそこを訪れた。意外な随伴者とともに……。

 武蔵野の面影を色濃く残すそこは、多くの樹々に囲まれ、静謐さを纏い、広大な敷地に佇んでいた。

 その場所で、主人公は、一瞬、自身の幼少の頃を思いだす。そして、自分が歩んだ暗くて重い過去を語り、これからの未来を報告する。

 主人公と一緒になって墓前で手をあわせ、また、隣で告白を聞いている随伴者の存在が、物語を暗いままで終わらせず、明るい未来を一条照らした。
 この物語の魅力のひとつかもしれない。

 文学調の物語も、また、素敵である。

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彼岸花と雨

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