主人公が荒んだ時を刻む中、肉親のひとりが、その命を自ら絶った。
その原因の一端が、遠からず自分にあると感じていたのだろうか……。今では、確かめる術を持たない主人公が、暫くぶりにそこを訪れた。意外な随伴者とともに……。
武蔵野の面影を色濃く残すそこは、多くの樹々に囲まれ、静謐さを纏い、広大な敷地に佇んでいた。
その場所で、主人公は、一瞬、自身の幼少の頃を思いだす。そして、自分が歩んだ暗くて重い過去を語り、これからの未来を報告する。
主人公と一緒になって墓前で手をあわせ、また、隣で告白を聞いている随伴者の存在が、物語を暗いままで終わらせず、明るい未来を一条照らした。
この物語の魅力のひとつかもしれない。
文学調の物語も、また、素敵である。
本作は塾講師が教え子とともに、10年前に他界した実姉の墓参りにいくお話です。
かつては荒んだ生活を送っており、それが姉の死因の一因ではないかと考えていた主人公は、両親と縁を切ったこともあり、自然とお墓から足が遠のいていました。
人生の転機を迎え、主人公はもう一度過去の自分と向き合うことを決意します。
奇しくも同じように、節目を迎えた教え子の存在が良いアクセントを加えています。
角川武蔵野文学賞に応募されている作品ということで、短編で読みやすい文章ですので、すらすらと進めることが出来ると思います。
夏の暑さが季節とともに過ぎるように、苦しいことでも終わらないことはない、それは現代の世情に向けたメッセージのようにも思えます。