たちまち引き込まれ、一気に読んでしまいました。

私は作者さまのファンで、いくつかの作品を愛読させていただいております。幸せな家族愛にあふれたエッセイや、キリスト教を解説した作品もユーモアや感性が光っていて、明るいお人柄にいつも癒され温かい気持ちになります。作品からうかがえる包容力あるキャラクターに心惹かれております。

ですが作者様の、暗くかげりあるエッセイの方は、途中で読めなくなってしまいました。知りたいと思いつつも、痛すぎて悲しすぎて読み続けられなくなってしまったのです。私が作者様に惹かれるのは、悲しみや辛さ、傷も抱えつつ、愛も闇も知っている方であり、その人間味の深さに心しめつけられております。

作者様は、作中の新興宗教の狂信者とも言える母親を自分の分身だとおっしゃいます。宗教にはまる人の特徴や教団の洗脳の手口をリアルに描いて下さっています。ストーリーは重く、不幸と悲劇の連鎖のようにも見えますが、人の中にある弱さや闇、その救い難さを教えて下さっています。

作者さまはご自身の経験も織り込みつつ、愛あるメッセージを込めてこの作品を描いてくれたのだと感じられます。辛くなるシーンも多かったのですが、最後には愛や良心を信じられる、希望ある形で物語を結んでおられます。それは作者さまの信じておられること、発したいものであったという印象を受けました。

読むのが辛くなってしまうような冷徹な展開・・・それもまた作者様の力量のなせる技でしょう。きれいごとではなく、ハッピーエンドとも呼べず、読む人はさまざまな問いを投げかけられるようで、感情移入せずにはいられなくなります。きつい、やりきれない、しんどいお話とも言えます。

宗教やコミュニティの持つ怖さ、人間の弱さ、醜さ、理不尽さなどがまざまざと描かれています。人間の持つさまざまな側面が表現された、中身の濃い作品でありました。

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