信仰とは?生きるとは?哀しい愛が詰まった作品

 まず最初に言っておく。
 本書はライトノベルにありがちな、いわゆる「異世界転生」ものでもなければ、「ざまぁ系」の悪役令嬢もでてこない。魔法も出てこないし、超能力も出てこない。

 現代社会における日本人の心の拠り所の一つとなり得る「信仰」というものに焦点を当てており、宗教とは、信じるとは、そして愛するとはどういうことなのかを改めて考えさせてくれた。

 日本では宗教を持つということに関して忌避感が一般的には先行していると思うのだが、その一方で信仰に縋らなければ自分の自我や自尊心、生きる希望を保てないヒトも一定数いる。この場合の信仰とは何も宗教に限らない。薬物かもしれないし、ギャンブル依存などもその人の生き方に作用し、生き方を支配するのであれば、本質的には同義と考えてよく、本書ではそれを読者にわかりやすく、新興宗教としておいている。

 そもそも、多種多様なストレスに満ちた現代社会に生きている我々にとって、家族間での信仰に対する見解の食い違いは、お互いの信じる善意と善意がぶつかることになる衝突である。家族間でそのような衝突の発生は不幸だし、信仰の自由と、親(保護者)による子(被保護者)への信仰の強制は現実社会でも不幸な側面を生み出すことが往々にしてあり得る。家族とは個人のすぐ次に広がる社会単位であるから、家族の信仰を否定することはその家族の生き方を否定することにつながるわけだ。

 本書はそういう現代に生きる我々の心の拠り所の有り様と、拝金主義化した新興宗教とその教団の闇を土台として家族の愛情を柱に建てられた作品だと感じた。カクヨムにあっては異色の題材とも言えるこのようなトピックに焦点を当てた本作に関して、とても好感が持てた。

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