母が本当に縋りたかったもの

新興宗教に溺れる人、そしてその二世と呼ばれる子どもたちの葛藤を描いた作品です。重たいテーマではありますが、文章が非常に読みやすく、展開が早いので、巻き込まれるように先を知りたくなります。

主人公沙羅の母である久美子の宗教への浸り方、その心理描写が恐ろしいほどにリアルで、そこへ没入している人間の思考回路を克明に見せてくれます。また、なぜそこへ縋らなければならなかったのか、久美子の背景も語られることでよりその心の闇を理解することができるのです。そんな人の心の闇を利用し食い物にする宗教集団の体質も、不気味に炙り出されます。

この作品で登場する二世は、生まれながらにして自由を奪われた子どもたち。自分から何も選ぶことができず、おびえながら掟に従わなければならない彼らこそ、真の被害者と言えるのではないでしょうか。

縋るべきものは水晶ではなく、もっと別なもののはず。最終的に久美子が選んだものは何か、これは怒涛の後半部分で見届けてください。
凄まじい物語ではありますが、読後は希望と清々しさを感じる作品。
ぜひ手に取って頂きたいと思います。

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