透明硝子のような器に燃ゆる花。美しい少年の魂が森に生命の焔を燈す。

『ジュールの森』は純文学であり、ボーイズラブの要素を持つ青春小説であり、物語の色は人生を映し、必ずしも瑞々しい森の翠色ばかりではありません。19世紀のフランスを舞台に、ジュールという名の少年が、様々な葛藤を乗り越えて青年に成長していきます。その過程を丁寧な絵筆を用いたタッチで追う、彩り豊かな物語です。

少年・ジュールと、青年・ヤン。苛酷極まりない運命を生き抜こうとする彼等の愛が見えます。未来へ向かう生への希望が育まれては絶望するのですが、幾度、茎を折られても花は開くのです。決裂と融合。別離と再会。人間の残酷な面も未熟な面も乗り越えていく心の襞が、異国を舞台に織られ、時に切り裂かれ、そして再び紡がれるのです。

文章には美しいリズムがあり、異国の薫風と繊細な情緒を「日本語で綴る物語」というメディアに封印した文学。
いいえ……「封印した」と言うよりは「開放された」
心の薔薇窓が森に向かって開け放たれ、愛の旋風を巻き起こすが如くの熱情と浪漫です。

フランスの風に、やわらかな魂をたゆたわせるジュール。彼の心に寄り添うヤン。脇を固める個性的なキャスト。すべてが一織りのフィルムのようです。優秀な長編映画さながら、情景と心情は絶妙の比率を保持して、絶えまなく束の間のピースを連鎖させて永遠を形作ります。

この尊い愛の物語は大切に焔を燈し、存在しなければならない。
心の宝石に必ず成る。

そんな小説だと信じられるのです。是非、どうぞ。

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