深海のような過酷な環境で生きる少年の人生と等身大の精神構造

森で行き倒れていたジュールとブルジョワ育ちのヤン。
二人が親密な仲になるのにそれ程時間はかかりません。

ただし、この作品は「純文学」です。
同性の二人の関係がプラトニックではないからこそ、こうした深い精神のやり取りを描けたのではないかと感じます。

美しい容姿に呪いのように付き纏う悲劇の連続
子供という社会的立場の弱さ
力と金、時と場合に弄ばれるような不遇の数々
自分ではどうしようもない出生
たぎらせた想いとは裏腹に、現実は意外と呆気ない

間違いなく居た堪れない気持ちになります。
だからこそ、ちゃんと行く末を見届けてあげたくなります。


出逢ってまだ間もない頃、二人がある文学作品を共有した際に、こんな会話をします。
「…暗いね」
「暗いよ。そこがいいんだ」

全体を読み終えた時、この台詞をありありと思い出しました。
暗いですよ。
だからこそ、柔らかな陽が射した時の、温かみや有り難みをヒシヒシと感じます。
高く上った陽が射せば濃い影が、低い陽には長い影が当然のように付き纏うもの。
いつまでも続いて欲しい短い夏と、どんより長い冬とも言えます。
でもどのシーンも「春」を待ちわびながら読んで欲しい。

読み終わるのが無性に惜しくなる、読み終わったら読み返したくなる。
こちらはそんな素晴らしい「文学作品」です。

是非、一人でも多くの方に手に取っていただきたいと思います。

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