たゆたえども、沈まず

青春は楽しいことばかりじゃない。子供ならではの無力さがつきまとい、人生がままならない。周囲の悪意や欲望のはけ口にされてしまう。
この作品の主人公ジュールは、美しく聡明だけれど普通の子。悪者をやっつけるヒーローのようなタイプではありません。性の対象にされたり、言いがかりをつけられたり……。理不尽な扱いのオンパレード。愛する相手と離され、再会しても重い現実がのしかかる。
いったいいつになったらジュールは幸せになれるのー!って叫びたくなる。

パリ市の標語「たゆたえども、沈まず」
困難や絶望に沈みそうになる。けれどそれでも、苦しみながら人はもがき続ける。死んだほうがマシな状況でも、本能的なものが生き延びようとあがく。
嵐に必死に耐えるジュールから目が離せず、読み始めたら最後まで読みたくなる。ジュールの幸せを願いながら、ページを繰る。
絶望の中にあるひとかけらの希望。影に潜む光。死の隣に寄り添う生。喪失した先にある真実の愛。
カクヨムにも優れた文學作品があるって、素晴らしいですね。

ちなみにフレデリックという人物。闇に心惹かれる方が多数いると思いますが、もれなく腹立ちます。でも安直なざまあみろの展開にしなかった作者を尊敬します。

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