第9話「懐かしい」
三日後――全ての準備を終えた俺は、再びテニスコート付近を訪れていた。
この三日間、俺は花咲さんのプレーを活かす事と、自分のテニスの感覚を取り戻す事に専念した。
パワーがない以上技術面で勝負するしかないし、当然前衛を活かすも殺すも後衛なため、予め試合展開を考えておく必要があったのだ。
今回は行き当たりばったりのテニスで通用する相手ではないからな。
そしてソフトテニスは感覚要素が強く、少しテニスをしていないだけでボールの距離間などに違和感が生じてしまう。
俺はもう数ヵ月テニスをしていなかったのだから、感覚を取り戻すのに時間を要したというわけだ。
むしろ三日間で元に近いくらいの感覚を取り戻せたのは早いほうだろう。
「――さて、お手並み拝見といきましょうか」
ウォーミングアップを終えた俺が女子ソフトテニス部に顔を出そうとすると、なぜかしたり顔の浅倉さんが隣に立っていた。
……この人、いつの間に居たんだ……?
音も立てず現れた浅倉さんに俺は疑問を抱いた。
しかし、どうせこの人がいないと話が進まないため、自分から来てくれたのは有難い。
「話は付けてくれるんですよね?」
「もう既に付けているわ。美鈴と組んで試合をしてもらうのは、昨年個人でインターハイにも出てるペアの子たち。まぁ一番手の子ね」
「…………いや、ちょっと待ってください。なぜ一番手? しかもインターハイに出たペア? 普通に部の平均レベルの相手でよかったのでは……?」
シレッととんでもない事を言ってきた浅倉さんに対して、俺は足を止めて遠回しに文句を言う。
いくらなんでもインターハイを経験している相手はきつすぎる。
ましてやレベルの高いこの部で一番強いペアだなんて……。
「男子がペアである以上、勝って当然という気持ちが絶対みんなの心には生まれる。せめて、一番手くらいは倒してもらわないとね」
難しい事を当たり前のように言ってくる浅倉さん。
一番手くらいって、一番手より上は存在しないのだがその言い回しはいいのだろうか?
少なくとも無茶ぶりもいいところだ。
「なんだろう……この無茶ぶり感。なんだか身に覚えがあるのですが……」
懐かしい――それこそ、ジュニア時代によく味わったものだ。
一瞬、浅倉さんが
多分年齢も近いからだろう。
「さて、ここで話していても始まらないよ。さぁ行きましょ」
「わかりましたよ……」
俺は渋々といった感じで浅倉さんに頷く。
彼女が言っている事が確かなのも事実。
どうしても女子は男子に身体能力が劣る。
部で一番強い相手を倒し、尚且つ花咲さんの力で勝たないときっと認められる事はないだろう。
……試合前に、変なプレッシャーを掛けられてしまったな……。
でも、やらなければいけないんだから、やるしかない。
――テニスコートへと向かう中、俺は昔集中を高めるためにしていたガットを整える事で自分の意識を集中させるのだった。
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