第4話「誰よりも小さくて誰よりも大きい」
「――ファイトファイト~!」
「ファイトファイト~!」
次の日の放課後、俺は言われた通り女子ソフトテニス部の練習を見学に来ていた。
とはいえ、堂々と女子の練習風景を眺めていると周りの生徒から訝しげに見られてしまうため、当然隠れて見学をしている。
……隠れているところを見つかればもっと酷い勘違いをされそうだが、その時は最悪花咲さんに助けてもらおう。
男の俺が弁明してもどうせ信じてもらえないのだから、潔く助けを求めるほうが賢いと思った。
俺は意識をテニスコートに戻し、女子ソフトテニス部の練習を見つめる。
今は後衛練習の番らしく、一本打ちという基本練習が行われていた。
――基本練習だからこそ、このソフトテニス部がどれだけレベルが高いかがよくわかる。
一年生はまだ仮入部にもなっていないため、今練習をしているのは二、三年生なのだろう。
一本ずつ交代で球を打ち返しているのだが、誰一人としてミスをしていない。
頭の高さが変わらないよう意識された体重移動に、打点を調整するために行われるスムーズな歩幅調整。
一定のリズムでテンポよく飛ぶ打球を見る限り、普段からとてつもないほどの反復練習が行われているのだという事がわかった。
さすが、インターハイ優勝を何度も経験している強豪校だけはある。
ここ最近は成績が振るっていないと耳にしたが、普通にインターハイに出場するくらいの実力はあるだろう。
――そして、いよいよ前衛練習の番が回ってきた。
行われているのは基本ボレーという、ペアの後衛が球上げをし、それを前衛がボレーをして後衛の足元に返すというものだ。
強豪校ほどこの練習を特に重視している節がある。
極論、基本ボレーさえ練習していれば、ある程度のボレー技術は身に付くからだ。
やはり後衛陣同様、前衛陣のレベルも高い。
右利きは右足に、左利きは左足に、一瞬――しかし、しっかりと溜めを作ってからボレーをしていた。
そして、コート上の端々から快音が鳴り響いている。
みんな、しっかりとボールをガット(ラケットに網状に張られている紐)の中心で捉えている証拠だ。
そうでなければ、これほどの快音がコート上に鳴り響く事はない。
――パァン!!
ふと、コート内で一段と大きな快音が鳴り響いた。
数秒置いて、同じ方向からもう一度特大の快音が鳴り響く。
その音に惹かれ、思わず視線が音のするほうへと引き寄せられた。
――そこでボレー練習をしていたのは、ここ最近俺の前によく現れる女の子。
コート上の誰よりも大きく、そして耳障りのいい快音を放っていたのは、コート上で誰よりも小さく、そして最も力がなさそうな女の子――花咲美鈴さんだった。
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