その②
***
「おぉい、ウィル。例の件なんだが……」
いつものようにズカズカと部屋へと入ってくるのは、私の部下であり、幼なじみのダニエル。
筋肉を
彼女の存在に気付いたダニエルが気まずそうに部屋を出ようとするのを、引き
「とりあえずそっちに……」
机を指差してから、彼女をチラッと見やりそこで待つように伝える。
何となく後ろめたい気持ちが残っているせいか、正直ダニエルがこのタイミングで部屋に来てくれたことにホッとしている自分がいた。
ダニエルから受け取った書類は急ぎの案件ではなかったが、とりあえず指示を出し、サインをしてから
彼女は大人しく待っているどころか、何の
ようやく気付いた彼女は、ぎこちなく口いっぱいに菓子を頰張ったままの顔をこちらに向け、イタズラを見つかった子どものようにバツの悪そうな顔をした。
そしてカップの紅茶を飲み干しテーブルに戻すと、
「そちらのお話はもう終わりましたの?」
と、令嬢らしく
大方
その目には
あまりにも分かりやすい誤魔化し方に、思わず私まで声を立てて笑っていた。
声を出して笑うなど、いつぶりだろうか。
ダニエルの用事も終わり、机から彼女のいるソファーへと場所を移す。
先程口いっぱいに菓子を頰張っていた姿に『まるでシマリスだな』などと思い、テーブルの上に残っている菓子を手に取り、思わず彼女の口元へ持っていった。
彼女は反射的に口を開けてパクついた後、『しまった』という顔をしながらも、口はモゴモゴとしっかり動いている。
……なんだ、この
女は
自分にもこんな風に思える感情があることに
そんな自分の感情を不思議に思いながらも、また一つ菓子を手に取り、再度彼女の口元へと持っていく。
今度はなかなか口を開こうとしない。
こうなると、無理にでも食べさせてやろうという気になるものだろう?
彼女が
まあ、負ける気はしないが。
結果はやはり彼女が根負けし、私の勝利である。
困ったように
向かい側で笑いすぎて
使用人が「国王陛下がお呼びです」と呼びに来たところで、
リリアーナはかなり小さく、並ぶと私の胸の辺りにつむじが来る高さしかない。
それゆえ歩くペースはかなり
なぜだか不思議と自分の歩くペースを落とすことに不満を感じない。
それどころか、彼女はダニエルにおかしなあだ名を付けてみたり『鼻毛が三倍速で伸びる』などという、地味に
……本当に、こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。
普段の倍以上の時間を掛けて歩いたはずだが、なぜだかあっという間に応接室に
「どうだ? お前の婚約相手は、このリリアーナ
「私の婚約者には彼女を、リリアーナを望みます」
国王が話している
今更他の女を選ぶなどといった面倒なことは考えたくもなかったし、何よりこの小さく可愛らしいリリアーナのことを、私はかなり気に入ってしまったのだ。
彼女となら、今後もきっと
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