その③
ウィリアム殿下の部屋に
そこは「どうぞ」とか何とか
中はシンプルと言えば聞こえはいいが、
余計な
リリアーナは小さな可愛らしいものを
ウィリアム殿下はスタスタとソファーへと向かい、さっさと一人座ってしまわれた。
雑な
座れたのはいいけれど、これって案内されたとは言えないわよね?
決して楽しいなどとは言えないこの
リリアーナは高級なものであろう紅茶を頂き、喉を
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
返事はなかったが、こちらをしっかりと
「あの日、なぜ私を選ばれたのでしょう? ウィリアム殿下のお言葉は『私がいい』ではなく『コレでいい』でしたわ。つまり、私でなくともよかったという事ではないのですか?」
「まあ、そうなるな」
悪びれずに
普通ならばここは
「では私には身に余るお話ですので、他のご令嬢をお選び頂きますよう、お願い申し上げます」
王子様からの婚約回避の返事を期待して頭を下げる。
思った以上に順調に婚約辞退の意思を伝えられたため、下げた頭で表情が見えないのをいいことにほくそ笑むリリアーナ。
これでこの話はなかったことに……
「無理だな」
ならなかったぁぁぁぁああ(泣)。
なぜですのっ! ここは『分かった』と言うところではないんですの?
近々立太子されると言われている方の婚約者になんてなってしまえば、王宮での窮屈な生活と王太子妃教育なんて面倒くさいものが待っているじゃないですか。
リリアーナは下げていた頭を勢いよく上げた。
「なぜですの? 私でなくてもよろしいのですよね?」
必死な訴えに対して、ウィリアムは
「お前は令嬢達の中で、一番ギラついていなかったからな。どうやら私よりも料理の方に興味があったようだが」
そう言って思い出したのか、ウィリアムはククッと小さく笑った。
笑わないはずの王子様が笑ったことよりも、まさかブッフェを
更に、地味目にしていたことで逆に目立ってしまっていたことに、リリアーナは
「おぉい、ウィル。例の件なんだが……」
ノックなく許可も得ずにズカズカ部屋へと入ってきたのは、二十代前半と
ウィリアムより少しだけ背が低いが、しっかりと
王子のことをウィルと呼ぶあたり、相当仲がいいと見受けられる。
顔を上げたリリアーナと青年の視線がバッチリ合うと、青年は気まずそうにした。
「っと、お客さんだったか。すまない。また出直して……」
「構わない。とりあえずそっちに……」
ウィリアムは顎で机の方を指し、それからリリアーナをチラッと見やる。
「ここで少し待っていろ」
そう言って机の方へ移動していった。
リリアーナはそんなウィリアムの後ろ姿を見ながら、
(婚約回避に同意してさえ頂けたら、待たずにサッサと帰りますのに)
と、心の中で毒付きながらテーブルへと視線を向けた。
そこには美味しそうなお菓子がたくさん並べられている。
(……待っていろということは、これを食べて待っていてもいいのよね? いえ、むしろ食べて待っていろということなのでは?)
リリアーナは
それは今までに食べたどのお菓子よりも、
(美味しい~~~~~~っ!)
叫びたいのを声を出さずに何とか堪えて、あやしく
(
最初の恐る恐る伸ばした手は何だったのかと思える程に、伸ばす手に全く
最早何のために自分がここにいるのかは
リリアーナがお菓子の美味しさに悶えている場所から少しだけ離れた机の前で、ウィリアムは筋骨隆々の近衛騎士の青年から受け取った書類を見て、指示を出していた。
重要案件という程ではなかったため、書類にサインをしてすぐに青年に戻し、ふとリリアーナの方に視線を向けて、固まった。
そんなウィリアムを見て青年もリリアーナの方へと振り返る。
何の遠慮もなくとっても幸せそうな笑顔で次々と可愛らしい口にお菓子が
その音に、リリアーナは自分が今いる場所を思い出した。
思わずギギギ……と音がしそうな程にぎこちなく、口いっぱいにお菓子を
驚きに目を見開いて机の向こう側で固まるウィリアムと、机の手前で口に手を当てプルプル
リリアーナはカップに残った少し冷めた紅茶で無理矢理に口の中のお菓子を流し込むと、カップをテーブルに戻し衣服の乱れなどをチェックし、背筋をピンと伸ばす。
「そちらのお話はもう終わりましたの?」
令嬢らしく
……しようとしたのだが、マッチョな青年がたまらず声を上げて笑いだしたために、なかったことには出来なかった模様である。
しかもご
そしてそれまで固まっていたウィリアムまで、声を立てて笑いだしたのだ。
すると今まで
これでもかと言う程に目を見開き、口もポカンと開かれ、ちょいイケメン寄りだった顔はとっても残念な顔になっている。
ウィリアムはそれに気付くとムッとしたような表情になった。
「ダニー、何だその顔は」
「いや、だって、おま、ウィルが、いきなり笑うからだろ」
「私が笑ったぐらいで、一体何だと言うんだ」
「お前、知ってるか? ウィルがこう、口角をちょっと上げて笑っただけで、明日は
「
「いやいやいや、長い付き合いの
ダニーと呼ばれるマッチョな青年は
「俺は『氷の王子様』なんて呼ばれてるコイツ、ウィリアム殿下の幼なじみ
「……リリアーナ・ヴィリアーズですわ」
「リリアーナ嬢か。いやぁ、君のお陰で貴重なものが見られたよ。ウィルの笑う姿とか、ほんと久しぶりに見たわ」
ダニエルは思い出したのか、また
「お前は笑いすぎだ」
なぜ隣に? と驚くリリアーナ。
マッチョな青年ダニエルは笑いながら立ち上がり、最初にウィリアムが座っていた向かい側へと座った。
まだ決定していないとはいえ、婚約者(仮)の隣に他の男を座らせるわけにはいかないということだろう。
そういう
ウィリアムは隣に座るリリアーナを少しの間ジッと見ていたかと思えば、テーブルの上に残っているお菓子を手に取ると、いきなりリリアーナの口元へ持ってきた。
思わず反射的に口を開けて、パクついてしまってから『しまった』という顔をしながらも、モゴモゴとしっかり口を動かす。
ウィリアムは口角を上げて小さく笑いながら「フム」と自分の中の何かに
これは何のプレイですか?
ついていけないまま、リリアーナは脳内で激しくツッコミを入れた。
ウィリアムはジッとリリアーナの口元を見ながら、その手を下げる様子は全くない。
リリアーナが我慢出来ずに食べるのが先か、ウィリアムが諦めて手を下ろすのが先か。
リリアーナの目は激しく泳いでおり、一度も二度も同じことと、仕方なくまた口を開けてパクついた。
この勝負、どうやらウィリアムに軍配が上がったようである。
向かい側に座っているマッチョな青年ダニエルは、最早笑いすぎて声も立てずにピクピクと
常に引き結ばれていた氷の王子様の口元は、ずっと口角が上がりっぱなしの状態になっており、心なしか彼のピリピリとした雰囲気は
テーブルの上のお菓子がなくなるまで、ウィリアムのリリアーナへの
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