その②
招待状があるためスムーズに王宮へ入ることが出来たが、車寄せの辺りで混雑しておりしばらく馬車の中で待たされることになった。
「このまま帰ったらダメかしら?」
「リリ? 私としてもその方が嬉しいけれど、今日ばかりは無理だな」
「分かっております。……ちょっと言ってみただけだわ」
「希望する令嬢だけのパーティーにすればよろしいのに」
仕方ないとは思っているものの、まだまだ時間が
イアンは
「王宮主催のパーティーなら、リリの好きな美味しいものがたくさんあるから、な?」
「そうですわね、せっかく
王宮もリリアーナにすれば『こんなところ』呼ばわりである。
モリーに食べすぎるなと言われたこともすっかり忘れ、思いは豪華なブッフェへと飛んでいる。
すっかりご機嫌な様子の妹に、楽しそうに目を細めるイアンであった。
ようやく車寄せへと馬車をつけると、リリアーナはイアンと共に馬車から降りた。
ここからは人目があるため、
本当に、
会場へと向かう
長い廊下を
高い
「目に
リリアーナが思わず呟くと、イアンも同意する。
「今日は一段と目がチカチカするな」
いつもであれば、ここで『見た目良し、将来有望』なイアンに令嬢が
社交辞令の
気合いの入った令嬢達は
会場内へは
令嬢はもちろんのこと、その親兄弟達も身内を王子様の婚約者の座に
この空間にいる令嬢達は全て、
皆表面上は
だが、リリアーナは当初の予定通り、『私は王子様を狙ってはおりません』アピールが効いたのか、早々に鋭い視線から解放されたのである。
(しめしめ、いい調子ね。この後国王様達への挨拶を終えれば、美味しいお食事が待ってますわ)
そのためにお昼を抜き、コルセットも緩めにし準備
リリアーナは部外者よろしくブッフェの食事を頂きながら、高みの見物を楽しむつもりだ。
招待客の全てがホールへ集まり、いよいよ国王一家のご入場である。
挨拶は爵位の高い者からとなるため、侯爵令嬢の後の列に並ぶ。一人一人の挨拶は短くとも、数がいるので時間が掛かる。
とても美しい
ようやく自分の番が回ってきたので、リリアーナは気を引き締めた。
「ヴィリアーズ伯爵家長女のリリアーナと申します」
この場にマナーの先生がいたら、完璧と褒めてくれるであろうカーテシーで挨拶を済ませ、不機嫌オーラを出しまくっている第一王子様と目が合わないように視界の
どうやら今日のお見合い予定は、氷の王子様こと第一王子ウィリアム殿下で
一通り挨拶が終わると、第二王子のオースティン殿下と婚約者である侯爵令嬢が中央のスペースへと向かい
それにつられてポツリポツリと踊りだす者が出始めたところで、ようやくブッフェにありつけるとばかりにリリアーナは足を進めた。
流石は王宮のパーティーである。
美味しそうな料理がズラリと並び、どれから頂こうか迷う程だ。
ここザヴァンニ王国は海に面していないために魚は
料理の前には数人の料理人がいるので、お願いして少量ずつ綺麗にお皿に盛ってもらった。
盛り付けの美しさも、食欲をそそるスパイスの一つである。
壁側に並べられた
今日は伯爵家以上の爵位の方々しかいないため、通常のパーティーよりもそれぞれの装いがよく見える。それでも大勢の貴族達で溢れてはいるが。
あくまでも第一王子様の見合いの場ということで、独身男性はゼロではないが、少ない。
ほとんどの令嬢が父親のエスコートで来ていて、ヴィリアーズ家のように兄弟にエスコートされている者は若干名しかいない。
しかし今日の主役である第一王子様は入場からずっと、動く気配がないご様子。
不機嫌オーラというか、近寄るなと言わんばかりの
まだ王太子は決定していないものの、このままいけば第一王子のウィリアム殿下が立太子されるのはほぼ確定とされており、彼の婚約者=王太子
けれど王太子妃になるためには、
それに表面上は
……そんなに王太子妃の座は
私は全く興味はありませんけれど。
むしろそんな
しかもお相手はあの『氷の王子様』。
一体何人のご令嬢が、あの威嚇オーラをかい
それよりもこのサーモン、
リリアーナは、自分も一応当事者の一人であることなどすっかり忘れ、完全に
丁度お皿に盛られたものがなくなり、おかわりをするべく立ち上がったところで、自分を
おかわりに
いつの間にか演奏も止められ、煌びやかなホールはシンとしており、横一列に並べられた令嬢達以外の者達は、遠目にこれから何が起こるのかと
すると、国王様に指示されたのか、ウィリアム殿下が全く気が進まないといった風に立ち上がり、リリアーナと反対側の端にいる令嬢の正面に進んでいく。
誰かのゴクリという
王子様のコツコツと歩く
令嬢の二メートル程手前で一度ピタッと止まると向きを変え、
令嬢達は少しでも自分をアピールするためにニッコリと微笑んでみたり綺麗なカーテシーを
ついに一番端っこポジションにいたリリアーナの前まで来ると、ピタッと立ち止まり、視線を全く向けないまま、
「コレでいい」
という大変失礼な言葉を残し、サッサと一人、会場を後にしてしまった。
「へ?」
リリアーナはもちろん、他の令嬢達も意味が分からず
そんな中、最初に我に返ったのは王妃様であった。
側近にコレと言われたご令嬢を別室へ連れてくるようにと言い、側近はコレと言われたリリアーナの前まで来ると「こちらへどうぞ」と声を掛けた。
しかし、全く思ってもいない展開に頭がついていかないリリアーナはそこから動けずにいた。
そこへ慌てたようにイアンが駆け寄ってくる。
「リリ! これは一体どういうことなんだ?」
なんで? 一体なんでこんなことに──?
周りの令嬢達も正気に戻った者から「なんであんな地味な子が」などの声が上がり始めていた。
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