第3章 氷の王子様

その①

 正直めんどうだった。

 女などという生き物は、いえがら・資産・容姿にこぞって群がる虫のごとき存在だと思っていた。

 少しでもがおを見せればさわぎだし、やさしいりをすればにベタベタとついてまわり、ならばと素っ気なくすればすぐに泣く。

 女は面倒くさいものと、自分の周りに寄せ付けないようにしてきた自覚はある。

 なぜそんなことになったかといえば……こんな私でも、一応幼少期に、あわはつこいなどというものを経験したことはあるのだ。

 私よりも一つ二つ年上の、どこかの貴族のむすめだったと思う。

 幼いころの私は、思い出したくはないが、少しだけなんじやくで泣き虫な子どもだった。

 確かあの時、私はけんけいで軽いをして、げ出して庭園のすみかくれて泣いていたのだ。

 そんな私にハンカチをそっと差し出してくれた少女に、おろかにも恋心などというものをいだいてしまったのだ。

 次会った時に返せるようにと、れいに洗ってアイロンまでキッチリとけてもらったハンカチを、毎日はだはなさず持って歩いていた。

 そしてその日はすぐにやってきた。

 数日が過ぎ、少女の姿を遠くに見つけ、私は気が付けばけ出していた。

 少女は数人の友人と仲良さそうに歩いており、少し離れたところでタイミングをはかって声を掛けようとした。

 すると、少女達が私のことを話しているのが聞こえてきた。

 初恋の少女が私のことをどう思っているのか期待して胸をときめかせたのだが──。

 次のしゆんかん、耳を疑いたくなるようなあざけりの言葉が次々と少女の口から発せられた。

 初恋の少女の心ない言葉にせいだいに傷つき、私の淡い恋心はわずか数日で音を立ててくずれ、そして学んだのだ。

 たとえとしのいかない少女であっても、女というものは信用にあたいしない生き物だと。

 それからの私は、もう二度と女にバカにされぬよう、人が変わったように剣の稽古にはげむようになった。

 もともと剣技の才能があったのか、真面目に取り組むようになってからは、めきめきと上達していった。

 周りは常にダニエルや信用のおける友人(もちろん全員男である)で固めて、女には極力関わらないようにして、えんだんなどはことごとく断ってきた。

 しかし十代の頃は何とかはぐらかすことが出来ていたが、二十代になるとそうもいかない。

 それでも無理矢理結婚の話題から逃げていたのだが、しびれを切らした国王王妃が暴挙に出た。

 それがあの集団見合いである。


 現在は近衛このえだん副団長という立場の私だが、それも近いうちに立太子するまでの間のこと。

 いつまでも逃げてはいられないことくらい分かってはいた。

 いつかは決めなければいけないのだ。

 それが今になっただけのこと。

 私のじやをしない、出しゃばらない女。知性のない下品な女でなければだれでもいい。

 ぎを産んでもらうためのけつこんなのだ。

 そこに愛情など期待されても困る。

 自分がどれだけ勝手なことを言っているかは分かっている。

 だから世継ぎを産んでもらった後は、めいわくが掛からない程度に好きに生きてもらって構わない。そんな風に思っていた。


                 ***


 とうとう見合い当日になってしまった。

 あいさつの列が延々と続き、どいつもこいつも色目を使って見てくる視線が不快だ。

 そんな中で私に全く視線を向けないというより、視界に入れないようにしている女がいたのだ。

 他のギラギラとかざったれいじよう達とちがって、かなり地味なその姿は逆に目立っていた。

「ヴィリアーズはくしやく長女のリリアーナと申します」

 挨拶を早々に済ませるとその女はそそくさとどこかへ行ってしまい、何となくだが印象に残っていた。

 ようやく挨拶の列がなくなると、のオースティンが婚約者と中央のスペースへと向かい、誰よりもゆうおどりだした。

 それにつられてポツリポツリと踊りだす者達が出始める。

 私はというと、その場からいつさい動かず。

 いつも以上に派手に着飾り、浴びるようにつけたであろうこうすいにおいをプンプンとらす令嬢達に、かなりいらっていた。

 そんな中で、ダンス開始早々に、いそいそとブッフェに向かう一人の令嬢が目に入った。

 あれは確か……リリ何とかと言ったな。

 ゴテゴテに着飾る令嬢の中で、小柄でドレスも地味すぎることでかえって目立っていたかのじよは、ズラリと並んだ料理を前に、とてもうれしそうな顔をしている。

 皿に料理を盛ってもらい、チョコチョコと目立たないような隅の方へと移動して、何とも幸せそうな顔をしながらほおっている。

 ……一体何しに来たんだ、あの女は。

 あきれながらも、そんな自由な彼女から視線が外せなくなっている自分に、ウィリアムは少しも気が付いていなかった。


 いつまでっても動こうとしない私にごうやしたのか、王妃が見合い相手である令嬢達を並べるよう、側近へと命じていた。

 いそいそと並びだす令嬢達。

 その中でさきほどのリリ何とかが、私から一番遠い位置へと並ぶのを目のはしとらえていた。

 国王がこの中から選べと圧を掛けてくる。

 ……これ以上引き延ばすのは無理だろう。

 あきらめるようにして立ち上がり、令嬢達の前をゆっくりと歩く。

 ふと、あの「私には関係ありません」という態度をとる彼女を選んでやったら、どうなるだろうかと思った。

 きっと、自分以外の誰かが選ばれるものと思っているだろう。

 かなりおどろくのではないか。

 そんな姿を想像して、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

 気が付くと一番端に並ぶ彼女の前まで来ており、私はそこで立ち止まると、彼女へ目線を向けることもせず、「コレでいい」と口にしていた。

 基本的に王族の私が選んだ相手は、ほどのことがない限り、断ることは許されない。

 それを理解した上で、そんな気も全くなかった彼女を選んだのだ。

 目線を合わせることが出来なかったのは、どこか少し罪悪感があったからだろうか。

 何となくその場にいづらくなり、私は足早にホールから出ていった。


「完全なる八つ当たりではないか……」

 自室にもどってから、自分の行動に激しくこうかいした。

 じっくり見たわけではないからハッキリとは分からないが、まだ幼さの残る彼女はきっと、てきれい(十四さい)になったばかりであろう。

 望まない婚約者選びをさせられている自分の前で、さも関係ないとでも言いたげに料理をまんきつしている姿になぜか苛立ちを覚えた。だからといって、仕返しとばかりに彼女の望まぬことをし付けようとするなど、なんて大人げない。

 しかし、いまさらてつかいも出来ない。したくもない。

 またあのギラギラした強すぎる臭いをまとった令嬢達とご対面など、めんこうむる。

 やはり彼女には悪いが、ここは諦めて私の婚約者として腹をくくってもらうとしよう。

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