その③


                 ***


 夕食を終えて、王子三兄弟は応接室にてくつろぎ中である。

 国によっては、王位けいしようけんを巡って兄弟のいがみ合いもあるが、ザヴァンニ王国の王子達に至ってはそういったこともなく、兄弟仲は良好である。

 ゆったりとした布張りのカウチソファーが、テーブルを囲むようにして置かれており、王宮内の応接室にしては、品は良いがいささか地味な気がしないでもない。

 王宮の人目のある部分はきらびやかな作りをしているが、現国王夫妻とその息子達はあまり飾りたてたものを好まない。

 だから王族の居住エリアは他と違って、品良く落ち着く空間となっているのだ。

 じゆうれたハーブティーを口にしているウィリアムを前に、とつじよ話しだしたのはホセだった。

「ウィル兄さぁ、婚約者を一番地味で、くさくないから選んだって、本当?」

 質問の内容におどろき、ハーブティーを淹れていた侍従の手が一瞬止まったが、何事もなかったように再びカップに注ぐ。

「誰からそれを聞いた?」

 その事実を知っているのはリリアーナ(と彼女が話した者)だけである。

「いや、今日王太子妃教育に来てたウィル兄の婚約者にバッタリ会ってさ」

「ほう? 確かホセは両家の顔合わせで一言も口を開いていなかったな。いつの間に、そんなに親しく会話を交わすようになったのだ? ん?」

「え、いや、その……」

 ウィリアムの様子が変わったことに気付き、ホセは質問の仕方をちがえたと思ったが、時すでおそし。

 そんな弟に、表向きは心配そうな目を向けるオースティン。

 微笑みの王子様などと呼ばれてはいるが、実は一番腹黒……こうかつ……いや、要領が良いのがこのオースティンだったりするのだ。

 完全に表の顔と裏の顔を使い分け、両親や婚約者にすらも裏の顔は見せないというてつていぶりである。知っているのはウィリアムとホセのみだ。

 なので今、侍従がいるこの応接室では、表の顔を見せている。

「兄上。婚約者とはうまくやっていけそうですか?」

 オースティンの台詞に少し考えて、ウィリアムは答える。

「そうだな、リリアーナといると退たいくつしないだろうしな」

 侍従がハーブティーを淹れ終えたタイミングでひとばらいをし、気心知れた三兄弟だけになった。

 たんにオースティンの裏の顔が現れる。

「ウィルが女性といて退屈しないだなんて言う日が来るとは思いませんでしたね。一体どんな話をされているので?」

 裏の顔の時は、兄上ではなくウィルと呼んでいる。

「どんな話と言われてもなぁ……。まだ一度しかまともに話せていないからな。そういえば鼻毛の話をされたな」

「「鼻毛?」」

「ああ。リリアーナがダニーに大笑いされたのをおこって、ダニーの鼻毛が三倍速でびるように毎日お祈りすると言いだしてな」

「それはまた、随分と地味なのろい……」

「私もそう言ったのだが、鼻毛をあなどるなと言われたよ」

「ダニーに笑われた理由も気になりますが、何ともまあ随分と変わったご令嬢ですね」

 何と言ったらいいのかというようにオースティンはみような顔をし、ホセはあきれた表情になった。

「でも、ウィルは随分とそのご令嬢を気に入っているようですね」

「ああ、女はもう信じないと心に決めていたが、何というか、彼女を見ていると小動物をでているような、何とも言えない可愛らしさを感じるのだ」

 思いのほかウィリアムは彼女にれ込んでいるらしいと、オースティンとホセは視線を合わせるとおもむろに頷いた。

 ウィリアムは婚約に前向きなようだが、ホセは彼女がいまだ婚約解消のチャンスをねらっていることを知っている。

 おもいが行き違っている二人がこの先どうなっていくのか、意地悪くも少し楽しみなホセであった。

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