テンプレ異世界転移物の枠を大きく踏み越えていく、大スケールの物語!

各地にダンジョンが発生したことによりRPG的な迷宮探索が日常になった現代日本。底辺レベルゆえに周囲の人々から蔑まれる主人公がとあるきっかけから異世界へ転移するスキルを入手、現代日本では不可能な「モンスターを倒した経験値でレベルアップする」能力を身につけた事で、成長を遂げるにつれて異世界で封じられた魔王の秘密、そして二つの世界にまたがる危機に巻き込まれていくヒロイックファンタジー。

異世界で都合よくレベルアップを続ける序盤の展開や気が付けば女性キャラだらけの無自覚ハーレム状況と、どうせありがちなテンプレ物でしょ、と当初は軽い気持ちで読み進めてましたが、主人公が成長を遂げるにつれて両方の世界でのあれこれ……異世界の側では封じられた魔王の秘密を巡る陰謀、現実世界の側ではダンジョンが発生するに至った異変に関する謎の究明と、両方の世界それぞれで進展する陰謀や事件の渦中へと否応なく巻き込まれていく展開が大変に面白く、とくに異世界側の500年前の時間軸へと迷い込んでいく辺りから俄然目が離せなくなりました。
二つの世界の関係についてもマルチバースのようなSF的な設定が示唆されたり、主人公の異世界転移などのチートスキルについても単にご都合主義に終始するのではなく、そこに何者かの思惑が介在するようなほのめかしがなされるなど、単純なテンプレファンタジーの枠には到底収まらない壮大な大風呂敷が広げられております。異世界側では魔王復活を巡るライトノベル的に王道と言える剣と魔法の冒険譚が繰り広げられる一方で、現実世界ではダンジョン発生の異変をSF的に究明しようとしたり、それらの謎を巡って国家スケールの陰謀劇に巻き込まれたりと、時として新書版ノベルズ全盛期の伝奇アクション物か、もしくはマーベルのようなヒーロー映画を髣髴とさせるようなハードアクション展開になることも。サブイベントと思われた展開がそのままメインイベントそっちのけで大がかりな事件に発展するなど、主人公が二つの世界を行き来しながら身一つでは持たないような幾多の出来事の渦中へと放り込まれていくストーリーテリングも巧みで、先々の展開にとにかく目が離せません。
主人公の性格や、その場しのぎの言動に素直に順応する周囲の対応など読んでいて良くも悪くもご都合主義と感じる部分も無くも無いですし、多くの作品を読みなれた人ほど序盤のザ・テンプレ異世界物な下りで見切りをつけやすいのではないかな、という懸念はありますが、むしろテンプレだからと敬遠している人にこそ読んでほしい、異世界ファンタジーの範疇にとどまらないスケールの大きい良作です。

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