【コミカライズ版】最底辺であがく僕は、異世界で希望に出会う~自分だけゲームのような異世界に行けるようになったので、レベルを上げて、みんなを見返します【発売中】

風の吹くまま気の向くまま

第1話 F級の僕は、今日もみんなになぶられる


5月9日 土曜日1



「おい、ナカ豚、何やってんだよ。早く拾え」


ここは、薄暗いダンジョンの中。

僕、中村隆なかむらたかしは、大きな荷物を背負いながら、懸命に地面に散らばる魔石を拾っていく。

と、いきなり、背中を蹴られ、僕は、再び地面に惨めに転がった。

折角拾った魔石も、また床に散らばった。


「ハハハ、こいつ、すぐ転びやがるな」

「おいおい、手加減しといてやれよ? こいつ、F級でもぶっちぎりに弱いからな。“普通に”蹴ったら、死んじまうかもしれねぇぞ」


周りから、ゲタゲタ下品な笑い声が起こった。

悔しくて、情けなくて、思わず床についた手をぎゅっと握りしめた。


「おい、F級様が、怒ってんぞ?」

「マジかよ」

「ったくよぉ。お前みたいなうすのろ。俺らがいなけりゃ、ノルマも果たせねぇくせに、調子こいてんじゃねえぞ?」


床に這いつくばっている僕の髪の毛を掴んで、顔を覗き込んでくるこいつは、高校時代、同級生だった男だ。

以前は、一緒に遊んだりもしていた。


だが、今は……


そう、あの日、僕等の世界は、突然変わってしまった。



半年ほど前、巨大な隕石が地球に接近し、大気圏外で突如粉々に砕け散った。

そして、その破片が、全世界に降り注いだ。

幸いな事に、その殆どは、人の住む地域から一定程度離れた山や谷に落下した。

そのため、直接の人的被害は、皆無であった。

ところが、翌朝以降、驚くべき事実が、次々と明らかになっていった。

まず、隕石の破片が落ちた場所に、空間の歪みとしか表現出来ないものが出現していた。

そして、全世界の人々は、自身のステータスを確認できるようになっていた。

中には、魔法としか表現できない異能を獲得した者まで現れた。

各国政府は、情報収集を開始した。


空間の歪みの向こう側は、一種のダンジョンが広がっていた。

各国は、それぞれ軍や警察の中からステータスの高い者を選抜し、調査隊を編成した。

ダンジョン内部に潜った調査隊は、そこでモンスターと遭遇した。

モンスターは、有無を言わせず襲い掛かってきた。

なぜか、ダンジョン内部では、銃火器は使用不能になっていた。

その代わり、ステータスの高い者による物理的な打撃や魔法攻撃で、モンスターを倒せる事が判明した。

倒されたモンスターは、光の粒子となって消滅した。

あとには、鉱石のような物が残されていた。

その鉱石のような物は、魔力が籠っており、加工可能であった。

その鉱石のような物で作成された武器や防具は、モンスターとの戦いに非常に有効である事が分かった。

その鉱石のような物を、僕等は魔石と呼び珍重した。


或る日、事件が起こった。

ダンジョン内部のモンスター達が、僕等の世界へとあふれ出してきたのだ。

調査が行われ、ダンジョン内部のモンスター達は、時間経過と供に、増えていくことが判明した。

そして、一定数を超えると、外部に出て来る事が分かってきた。

唯一の救いは、外部に出てきたモンスター達には、銃火器による攻撃が有効であった事だ。

当初、各国は、軍隊等を動員し、モンスター達に対処していた。

その内、また一つ、僕等にとって不利な事が分かってきた。

ダンジョン内部のモンスターは、例え一旦殲滅しても、時間経過で、いつの間にか復活し、勝手に増えていくのだ。


やがて、人手が足りなくなった。


世界中の国々が、次々と法律を改正していった。

基本的に、18歳以上65歳未満の男女は、1週間に最低7個の魔石を手に入れる、つまり、ダンジョンに潜り、モンスターを討伐する事が義務付けられた。

このノルマを免除されるのは、身体的精神的理由でダンジョンに潜れないと判断された者、及び、医師や公認会計士といった、特殊技能の持ち主のみ。

ノルマを達成できない者は、強制的に収容され、懲役に従事させられる事になった。


ステータスの高い者は、潜るダンジョンの難易度にもよるが、単独或いは少人数で、易々とノルマをクリアする事が出来た。

一方で、僕の様にステータスの低い者は、どれだけ集まっても、モンスター1匹倒す事は出来なかった。

ステータスの低い者は、ステータスの高い者達の荷物持ちをして、おこぼれを貰わないと、ノルマを達成する事は、到底、不可能となった。


ステータスの高低により、等級が決められた。

そして、格差が生まれた。

人は、学歴や経済的指標に加えて、ステータスの等級によっても差別される事になった。


最高ランクは、S級と呼ばれ、世界全体でも百数十名、日本では、数名しか存在しない特殊な人材として、一目置かれる存在となった。

以下、A、B、C、D、E、Fと等級が設けられた。

僕は残念ながら、F級であった。



ちなみに、僕のステータスは、F級でも最低ランクである。


名前 中村隆なかむらたかし

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1/100 腕力の強さ、物理的な攻撃力に関係

知恵 1/100 知力の高さ、魔法の攻撃力に関係

耐久 1/100 身体の耐久力、防御力に関係

魔防 0/100 魔法攻撃を軽減出来る確率

会心 0/100 相手の防御力を無視して攻撃出来る確率

回避 0/100 不意打ち以外を回避出来る確率

HP 10/999 文字通り体力。0になると死亡

MP 0/100 魔法の使用可能回数。強力な魔法は、一発使うのに、複数の回数を消費

使用可能な魔法 無し

スキル 無し



僕のステータスの右側の数字は、人類の限界値とされている数値だ。

S級の人達は、全てのステータスが、限界値に近い数字だという。

それに比較して、僕の数値のなんと貧弱な事か。

いや、貧弱なんてもんじゃない。

世界最弱、最底辺の数値。

ちなみに、ゲームと違って、経験値もレベルも存在しない。

どんなに身体を鍛えても、どんなに勉強しても、ステータスの数値は変化しない。

つまり、ステータスの数値は、生涯不変。

僕は、今後残りの人生、65歳になるか、何らかの事情でノルマを免除してもらえるまで、この数値と共に生きていくしかない、という事だ。



そして、冒頭に戻る。


今日僕は、C級1人、D級5人の混成パーティーに、魔石1個報酬の荷物持ちとして、雇ってもらっていた。

僕が、前回、魔石を7個、ダンジョンを管轄する機関、均衡調整課に提出したのは、6日前。

次の期限は明日、日曜日。

現在、手持ちの魔石は6個。

だから、今日、僕は何が何でも、魔石をあと1個ゲットしなければならない。


今日のダンジョンは、難易度的には、それほどでもなかったようだ。

D級の人達ですら、複数の魔石を手にしていた。

ノルマ以外の魔石は、自由に処分する事が認められていた。

魔石は、低ランクの品で数百円程度だが、最高レアな品になると、数千万円以上の値が付く事もある

彼等にとっては、このダンジョンは、良い小遣い稼ぎになっているらしく、定期的に潜っているようであった。

今は、帰り道。

出口は、すぐそこ。

もう、モンスターと遭遇する事も無いだろう。

気分が大きくなった彼等は、F級の僕をなぶって、悦楽に浸っている、というわけだ。


「おい、早く帰って、飲み行こうぜ」


その声に、僕の髪を掴んでいたC級の“元”友達は、嗜虐的な笑みを浮かべて僕の顔に唾を吐きかけると、ようやく僕の髪の毛を離した。

彼等は、僕の事など眼中に無いといった風情で、お互い談笑しながら、出口へと歩いていく。

僕は、のろのろと起き上がり、散らばった魔石を拾い集めると、彼等のあとを追いかけた。


と、前方で咆哮が上がった。


―――ブゥオオオオオ!


「お、おい、あれは!」

「なんで、あんなのがっ!?」


先行していた彼等から、動揺したような声が上がった。

暗がりの先に、全身に無数の目を持つ巨人が一体、棍棒を振りかざして立っていた。


「アルゴス!」

「なんで、B級のモンスターが、このダンジョンにいるんだよ!?」

「ともかく、奴の注意をそらして、突っ切るんだ!」


魔法を使えるC級が、牽制目的で、火球を放った。

火球は、アルゴスのすぐ傍で爆散した。

しかし、アルゴスの方は、それを気にする風でも無く、こちらへゆっくりと近付いて来た。


「俺達だけでは、B級のモンスターは、倒せないぞ」

「ど、どうする?」


動揺する彼等の一人が、僕の方をチラッと見た。

嫌な予感がした。

と、彼等の一人が、僕のリュックサックをひったくるように奪うと、僕をアルゴスの方に突き飛ばした。

アルゴスの全身の目という目が、僕の方を向いた。

再び咆哮が、大気を震わせた。


―――ブゥオオオオオ!


僕以外のC級とD級が、我先に、と出口の方に走り去って行くのを眺めながら、僕は、恐怖で動けなくなっていた。


アルゴスは、ゆっくりと僕に近付いて来ると、ニタァと笑った。


「モンスターにまで馬鹿にされるのか……」


アルゴスが、棍棒を振り上げる動作が、スローモーションの如く、よく見えた。


「F級で、しかもこんなステータスで、今後何十年も人生送るくらいなら、いっその事……」


色んな物を諦めた僕が、目を瞑った瞬間、


―――あなたにチャンスを与えましょう。その代わり……


「?」


知らない女性の声が聞こえたかと思うと、目の前のアルゴスを、白い光の柱が包み込んだ。


―――ギャァァァァ!


アルゴスの絶叫が響き渡る中、僕の視界が、白く塗りつぶされていった。

…………

……


どれ位の時間が経過したのだろうか?

気付くと、ダンジョンは、元の静けさを取り戻していた。


「助かった……のか?」


呆然と呟く僕の頭上から、ヒラヒラと何かが降ってきた。

手に取ってみると、それは、ハガキ大の薄く丈夫な紙であった。

表に、魔法陣のような文様が描かれている。


「これは……?」


正体不明の紙ではあったが、先程聞こえた声と何か関係があるのかもしれない。

僕は、その紙を懐に入れると、ノロノロと身を起こした。

出口に向かおうとした僕の視線の先に、魔石が転がっていた。


どうやら、アルゴスの魔石らしい。


僕は、それも手に取ると、出口へと歩いて行った。


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