たくさんの本当に、大切な嘘を一粒まぜて。

 タイトルの「彼女は嘘をつくのがとても上手だった」という一文が、読後じんわりと胸のなかに広がっていくような心地がしました。

 大学時代の元恋人の小夜に呼び出された涼が、彼女からとある依頼を受けるところから始まる物語。小夜は「病でもうすぐ死ぬ」とさらりと言って、不安や苦痛というものを一切感じさせません。手の施しようのない病であれば闘病生活は過酷であろうと想像できますが、この物語にはそういった描写がほとんどないと言っていいです。それもまた、小夜の上手い嘘のひとつなのかもしれないと思いましたし、涼の前では穏やかな顔の自分でありたいと思ったのかもしれません。涼が見た小夜こそがこの小説のすべてなのだろうし、小夜が望んだことのようにも思えます。

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