スナップショットのように切り取る世界。流れる時の中に落とす一滴の嘘。
- ★★★ Excellent!!!
描写が美しい。と言えば簡単ですが、どのように美しいのか、と訊かれれば悩んでしまうのですが。
率直に申し上げると、世界の切り取り方が美しいのです。例えば、“街にしっかり溶け込んだ建物の外観”という描写であったり、“心地よい風が僕たちの輪郭をなぞっていく”、という切り取り方であったり。
世界の奥行を文脈の中で写真のスナップショットのように写し取っています。
真実の中に一粒の嘘を混ぜるとありましたが、とても印象に残る言葉でした。人は時に嘘を吐いて生きていく。これは、誰しも経験のあることだと思います。しかし、それがかけがえのない真っ直ぐな想いの嘘であることは中々ないでしょう。それが、この作品の感動するポイントでもあります。
ゆっくりと立ち上る湯気のような時の流れと、落ち着いた会話の中に魅せる生死感。読み手の思考の中に染みこむような行間は、圧倒的でした。
巡る季節と生と死。香しく咲く草木としっとりと積もる薄雪。時の巡る活字の中の優しくも悲しい世界が奏でる物語に、胸がキュッとなりました。
良作を読めて光栄です。