第5話 三途の川へ行った人

 ずいぶん前に、娘が入院した時のことです。四人部屋だったのですが、私は毎日通って、長時間病室にいたので、同室だった年配の女性と話をするようになりました。その方はそれまでの苦労話など、色々聞かせてくださいました。内容はよく覚えていないのですが、大変な思いをされた方だなあという印象です。持病で糖尿病を持っていらっしゃったのですが、その時は別のことで入院されていました。


 一つだけ忘れられなかった話があります。彼女は、ある時、意識不明になり、気づいたら、大きな川のようなところに架かった橋を渡ろうとしていました。すると、向こうの方から、亡くなったはずの御親族何人かが、あっちへ行けと、追い払うように手を振っていたのだそうです。次の瞬間、目を開けて、意識を取り戻したのですが、後から聞くと、その時、血糖値が異常に低くて、本当に命が危なかったとか。更にもう一度、同じようなことがあって、やはり、その時も血糖値が異常に低く、死にかけていました。名前通り、三途の川です。


 二人目は前出のピアノの先生がご紹介くださった方です。色の診断(占いとスピリチュアルの中間みたいな)をされる若い女性です。彼女は二度死にかかり、二回とも同じ女性が現れて、帰りなさいと言われ、生き返ったそうです。場所はお花畑みたいな感じとおっしゃったと記憶しています。


 三人目は知り合いの妹さん。お父様が亡くなられて、そのお葬儀の時の話です。お経が始まると、妹さんが何かにとりつかれたみたいに変になり、しばらく元に戻らなかったのですが、正気に戻った時に聞いてみると、なんと、亡くなったお父様が、彼女に、手甲をつけるのを手伝ってくれというので手伝っていたのだそうです。手甲、あの、死んだら着せられる、白い装束の手に付けるやつです。お父様は、亡くなられる直前は手が壊死していたので、本当に一人でつけられる状態ではなかったようです。妹さんの手伝いにより、お父様は無事、手甲をつけることができました。


 この話を、当時お世話になっていた司会事務所の女社長に話しました。彼女は葬儀の司会を長年していたので、かなり専門的な情報をお持ちなのですが、ある葬儀関係者の話によると、死んだらあの白い装束を着ていかないとマズイみたいです。なので、自分は絶対あの装束を着せてくれと家族に言ったとおっしゃっていました。どうマズイか? また記憶があいまいで申し訳ありません。たしか、三途の川を渡れないといったことだったと記憶しています。(宗教的なものなのか、噂話なのか、出どころもはっきりしないので、話半分で聞いてください。)この話、娘を呼んでまで手甲をきちんとはめてもらおうとしたお父様の気持ちが裏付けられるなと思いました。


 さて、四人目は友人のお兄様のお話。道路で交通事故にあわれたそうですが、事故にあった直後、気づいたら、なぜか、近くの文房具屋の中にいたと、ずっと後で教えてくれたとか。三途の川までは行っていませんが、元の体に戻って生き返れてよかったです。

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