第8話 虫と話す女

 虫と話す女。それは私。虫と「話せる」ではなく、虫に向かって「話す」です。

 虫は苦手、特にゴキブリ。殺虫剤は薬だから怖い。奴らをたたいたら内臓が出て、汚れるからイヤ。

 ホウ酸団子を2月と6月に置くと効果的と聞いたので、随分前からやっています。

 でも、ゴキとはいえ、毒を盛るのは気が引けて……。

「ゴキブリさん、これ食べたら死ぬからうちには入って来ないでね」

 と声をかけて置きます。

 それでも奴らは1年に1〜2回は目に触れるところに出てきます。でも、団子が効いているのか、走らない。弱っているのかな?

「ゴキブリさん、ゴキブリさん、殺さないからじっとしててね」

 私はそう声をかけると、底部分を切り取ったペットボトルをカポッとかぶせ、下からハガキをシュッと突っ込んで捕まえます。奴らは捕まるまで、意外に動かずにじっとしているので、とても簡単。ペットボトルの中でパタパタするのは我慢して、玄関に持って出て遠くに向かって中身だけ投げ捨てます! もう来るな〜! と心の中で叫びながら。

 この他、家の中で虫を見つけると、

「虫さん虫さん、うちにいると殺されるから早くお家に帰ってね」

 と声をかけたりティッシュでつまんで逃したり。不思議なんですが、みんな良い子で言うことを聞いてくれます。おそらく、私が殺意を前面に出さず、お互い見えない場所で共存しようねという波動が伝わるのではないかと思っています。

 ゴキ、苦手なんですよ。、でも、キライという感情の方を極限まで殺すんです。これって、人間関係にも通じる気がします。

 なぜこんなことを始めたかと言うと、畑をやっている人が、

「虫さん、虫さん、この白菜だけ食べていいから他のは食べないでね」

 と言うと、一つだけ食い荒らして他のを食べなかった、という話や、山から出てくる猿に

「こっちの木の柿は食べていいけど、こっちの木の柿は食べないでね」

 と言うと、本当に片方の柿しか食べなかったと言う話を聞いたからです。

 虫一匹でも殺生すると閻魔帳に記録されますよ。

 お試しあれ。家族は引くかもしれませんが。


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