世界はいろんな人生でできている

楠瀬スミレ

第1話 絶対音感

 私自身は霊感も予知能力もありません。運動能力も人並み以下。ただ、もしかして、人より少しはすごい? と思うのは音感です。最近車を運転していると♭レの音が聞こえてきたので、このエッセイを書くことを思い立ちました。修理工場では、その音は、ブレーキパットが減っているため鳴っているのではないかということでした。


 初めて生活音を音階として認識したのは、幼稚園の時だと思います。そもそも、ピアノを電気のオルガンで習い始めたのが4歳の時だったので、それから小学生になるまでの間です。祖母の家に行くとき、電車のガタンゴトンという音がだんだん高くなってゆくバックに、伸びている音もだんだん高くなっていくのを、音楽のように聴いていたのが一番古い記憶。その後、物心ついたら、音が音階に聞こえていました。救急車は♪♭シ~♭ソ~♭シ~♭ソ~♪だと思っていました。


 しかし、私は残念ながら絶対音感ではありません。実は救急車、正解は♪シ~ソ~♪です。残念。


 歌は歌詞ではなく、音符で聞こえるので、音符で歌ってしまいます。しかも、絶対音感ではないのですべてハ長調! なんなら手はエア鍵盤で伴奏してます。 そんな状態ですから、歌詞が全く入ってきません。大人になって歌詞を読んで赤面する歌ってたくさんあります。「魅せられて」とか、なんじゃこりゃ! ですよね。


 この力が役に立ったのは学生のころ、女子バンドをやっていた3年ほどの間だけです。私、ベースギター担当でした。バンドは耳でコピーして演奏するため、キーボードの楽譜も作っていました。ちなみに楽譜を読むのは苦手。音楽の道には進まなかったので、その後、ほぼこの力は役に立たず、歌詞を覚えるのも苦手なままです。残念。


 しかし、娘がなぜか絶対音感を持って生まれていました。なぜ? 


 夫はまるで音楽に興味がない人。なのに、カラオケに行くと、歌に癖はあるものの、やたら音程が正確です。なので、私ではなく、夫の遺伝子に違いないと思っています。彼は声量も度胸もあるのでオペラ歌手を目指したら、いい歌をうたうのだろうなと思うのですが、何しろ音楽に興味がないのですからしょうがない。その能力、欲しい人、いっぱいいるのに。宝の持ち腐れです。でも、彼が音階を知らないのは幸いです。意外に絶対音感って縛られる感じがして苦しいものなんですよ。

そんな私たちの娘は歌が上手で、町内の盆踊りのカラオケ大会で入賞し、ビールをもらって帰ったりしていました。ヨシヨシ。無駄ではないみたいです。

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