胴布に筒袴。編笠を被った姿。米麺を啜り、水牛車に乗る。
東南アジアを思わせる文化の土地で、モノの怪退治を生業としているらしい主人公は金の髪に琥珀の目、そしてその片目は猫の瞳。彼女がこの亜熱帯の土地にやってきたのには、わけがあって――
描かれる風景はたしかな土の香りがし、呪術の仕組みの土俗の気配。対するそれに絡む主人公のバックボーンはしっかりと土台のある西洋魔法物語のそれで、その緻密さが世界の広がりを感じさせます。
主人公、ユエの抱える事情は重く、失うものも多いだろうことを想像させつつも、片目に宿る相棒との掛け合いの軽妙さでするっと読まされてしまいます。
リールーの頼もしさは素晴らしく、この王族猫が相棒で、覚えていてくれることがなんと心強いのだろう、とどれほど思わされたことか!
起こる事態も一捻りが効き、事件のさなかに主人公が口にする口上の、女性の体の仕組みへの優しい目線の心強さと格好良さは震えるほど。
この作品は連作短編の一作目にあたり、主人公の足跡を追って読み進めてもいいでしょう。
ユエと相棒の道行きを追いたくなること請け合いの作品です。
(「魅せる世界観×応援したくなる女の子」4選/文=渡来みずね)
とある亜熱帯の国を舞台に、西方より来た呪い師『化け猫ユエ』が、危険な怪物退治に挑む物語。
ファンタジーです。亜熱帯怪奇譚の名に偽りなし、和でもなければ洋でもない、まさしく〝創造された世界〟の愉しみを存分に味わわせてくれる物語。
物語の舞台や登場人物はもちろん、呪やモノの怪などの「この世界の法則」に至るまで。丁寧に積み上げられた種々の設定の、その厚みと読み応えたるや!
作中の世界そのものに途轍もない魅力があって、読むごとにぐいぐい引き込まれます。
特に独特のおどろおどろしさというか、何かえぐみのようなものがお腹に溜まる感覚が最高でした。
大まかな筋自体はシンプルな冒険譚、なんだったら迫力の戦闘シーンが山場だったりするのに、そういう単純なアクションとはまた別のところで首根っこを掴まれているかのようなこの読み心地!
この辺の、本作そのものの持つ魅力はもう、数多あるレビューによって語られている通りなのですけれど。本作は短編連作シリーズの第一作であり、この魅力が全作品に通底している、という点がなおすごい。このレビューを書いている時点であと四作の「おかわり」が可能です。お得!
読み終えるとわかるんですけど、確かにもっと他の冒険を覗いてみたくなる主人公で、そして期待したものがすでに用意されているんですから、なんとも贅沢な話です。
化け猫と呼ばれる不思議な少女。彼女の抱えた運命と、その旅路の一端を、少し覗いてみませんか?
とても素敵な物語でした。面白かったです!
まず文章全体に漂う『和』な雰囲気に浮いてる『西洋』な主人公が「たまらない」と感じましたね。このチグハグさ、小説全体で見れば言葉は非常に少ないものの「必要な分だけ置いている」と感じる文字の置き方や、ルビや言い回しなどで整えてある文体は読んでいて脱帽物です。
構築された世界は独特な雰囲気を残しながらも、あっさりと読みながら受け入れる事が出来る不思議な世界観になってます。
ストーリーに触れるとユエの過去、そして右目ことリール―の正体、「黒犬」や呪い師に依頼を頼む人々……全体的に仄暗さが漂いますが、それだけではなく夜に浮かぶ灯りのような温かさもしっかりと残しています。鏡の前での台詞が丁度いい塩梅でやってくるので、そこでじんわりとしたものを感じる人も居そうです。
ひとこと紹介にも書きましたが見た感想としては「こりゃ異世界だ」です。
また違ったファンタジーとしての形や新しい世界にワクワクしたい方にはお勧めできる作品だと思います。
うーん、これが15000字くらいしかないって事にビックリ。(続編もありますが)
骨が軋むような音もなく、ただ削られ、失っていくユエの物語。
幼き傲りの代償で、人の身には収まりきらない三様の魂が、蝕んでいく。
リール―も下腹の居候も、ただの身体の機関というには、あまりにも意味が重すぎる。
生きて行く強さを感じさせる物語、ではない。
死へと向かう旅路に美しさを見出す物語、でもない。
浸食が進むたびに、喪失の伴うユエはもはや、次の瞬間にはユエですらない。
けれど、どれだけ失っても、見てくれているものがいる。
物語の重さとは不釣り合いに、鮮明な明るさが見えるのはなぜだろうか。
覚えてくれている誰かがいるのであれば、生きていられるのだ。
右目にもお腹にも何かがいる呪い師のユエ。彼女の、ある場所でのある仕事のお話です。
設定や世界観について、明かされていくことと引き伸ばされていくことの間で楽しく翻弄されながら読みました。
幻想的なのに、解像度がすごい。一文に込められた情報の量と、見えてくる世界の奥行に圧倒されました。
登場人物の動きひとつひとつに、その体がふれる空気の質感や質量までもが感じられ、こちらの身体感覚がまるごと作中に引き込まれるような読書体験でした。
仕事を終えたラストには、ユエの過去や、お腹の中の誰かとの関係も明かされます。
ユエのこの先はまだまだ不安を伴ったまま続いていくことに変わりはないのだけど、現時点での彼女の解答が前向きに明示され、物語は新しい未来の予感と共に幕を閉じます。
文章の持つ力を改めて実感させてくれる幻想的なファンタジー短編。ぜひ読んで、この濃密な物語世界を体感してもらいたいと思います。
あと、個人的に平麺の使われ方が好きでした。