焚き火の中の奔走
ぼくは身を刺す寒さにせかされるようにして目を覚ました。あまりの寒さに熟睡は出来ず、何度か目を覚まし、また眠るという質の低い睡眠を繰り返していた。そのため身体の疲れは一向に取れた気がしなかった。毛布にくるまった身体は寒さで硬直したように、筋肉がこわばっていた。
横を見やると寝る前はついていた焚火の炎が消えていて、木の枝は炭と化していた。キャンプでは持ち回りで火の番というのが決まっていて、眠っている連中の身体が冷えてしまわないように、火の番になった者は一晩中焚火の見回りをして、消えそうになっている焚火や消えてしまっている焚火を見つけたら火を起こさなければならないのだが、今日に限っては火の番が仕事をさぼったのか、あるいは焚火を見落としたのか、とにかくぼくの焚火は忘れ去られてしまっていた。焚火の燃えカスの上にはすでに霜が降りていて、火が消えてからだいぶ時間がたっていることを教えていた。
ぼくは毛布を身体に巻いたまま立ち上がると、あたりに燃えている焚火がないかを探した。しめたことに、焚火はすぐに見つけることが出来た。時にオレンジ色に揺らめき、時に赤々と激しく燃え上がる炎の前に立つと、寒さに滞っていた血流が一気に流れ出すようだった。
辺りにはぼくと同様に起きている人間がすでに多く目についた。彼らは普段からこれくらいの時刻に目覚めているのだろう。別の焚火の周りに集まり、踊る炎を眺めていた。彼らは顔見知りなのか、隣に立つ連中と談笑をしていた。朝食の炊き出しの時間まではまだ間があった。連中を眺めていると、その輪の中に暁昴の姿を見つけた。彼女はしきりに周りの連中に何事かを話しかけていた。気軽に答える者もいれば、うっとうしがる者もいた。
暁昴がキャンプに滞在してからすでに三日が経過していた。彼女がこのキャンプで初めての夜を明かした日から、彼女はしきりにこのキャンプの連中に何事かを話しかけていた。最初こそ、ぼくに初めて話しかけてきたようにほかの連中にもちょっかいを出しているのだろうと思ったのだが、すぐそうではないと思い至った。ちょっかいを出すにしては彼女はあまりにも手当たり過ぎていたし、話しかけても数言言葉を交わしただけですぐに別の人物に声を掛けるために移ってしまうからだった。
その様子はちょっかいを出しているというよりは聞き込みをしていると言ったほうが近かった。実際、彼女は聞き込みをしていたのだ。探し人について聞き込みをしているのだろうとぼくは思っていたのだが、
炊き出しの時間になると、調理係の連中がいそいそと準備を始めた。暁昴もキャンプに滞在している間は調理係の仕事をする約束になっていた。彼女は夕星とともに作業をしていた。といっても料理は以前に食べた米と缶詰の混ぜ込みごはんで代り映えはしなかった。そのため、暁昴が自慢する料理の腕のほどもさほど確かめることは出来なかったのだが。この頃になると寝ていた連中も起きだしてきていた。キャンプは再び騒々しさを取り戻し始めた。
食事を終えるころ、暁昴がやって来た。「頼みがあるの」と彼女は言った。
「頼み?」
「
「聞いたことはあるけど」ぼくは言った。それは別のキャンプに所属している男の名前で、指折りの超能力者として有名だった。ぼく自身姿を見たことはなかったが、キャンプの超能力者たちが、もしも富張北斗を擁するキャンプに攻め込まれでもしたら……と戦々恐々と話していることは見知っていた。
「その人がいるキャンプは?」
「場所なら知ってるよ。ここからそれほど遠くはない。二、三時間も歩けばつく距離だよ。確か」
「ならわたしをそこに案内して」
「案内? なんだ、今度の目的地はそのキャンプってわけか?」
「そうじゃないけど。いえ、そうなるかも」彼女は言った。「だめ?」
「だめじゃないけどさ」ぼくは言った。彼女を別のキャンプに案内するくらいだったら、別に引き受けないこともない。「食料探しのついでってことでいいなら」
「それで充分! ありがとう! それじゃあさっそく今からいい?」
はしゃぐ暁昴をぼくは制した。「ちょっと待てって。その前に出かける準備をしてくるから」
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