06 どう抗おうと
全くもって――
はっきり言って、意味が判らない。
もちろん、言われた言葉の意味は判る。だが、それの意味するところが判らない。
「レギスの街まで、お前がひとりで旅をするのだ、ティルド。そうして〈風読みの冠〉を手にして帰ってくる。それがお前に与えられる使命だ」
「いったい、何で、また」
呆然としたままでティルドは返した。
「だって、大事なもんなんでしょう? 俺なんかがひとりで行って、万一のことがあったらどうすんです。何でか知らないけどひとりじゃなきゃいけないってんなら、俺以外に適切な人材は山のようにいると思うんですけど」
「そうだな」
ローデンは認めるように言った。ティルドは腹を立てることはなかった。事実だ。
「だが星はお前を示した。ほかの誰でもない。お前を」
「星、星って言いますけどね、そんなもんにいったい何の意味が――」
言いかけたティルドはきつい視線に出会って言葉をとめる。魔術師というのは「そんなもん」に重きをおくのだ、と思い出したときはもう遅い。
「魔術の理を知らぬものが口を出すことではない」
ローデンの口調は穏やかなままだったが、鋭い目線は公爵の怒りを表していた。ティルドは首をすくめる。《蜂の巣の下で踊る》ような真似であった。
「お前がどんな疑問を抱こうと、これは決定したことである。ティルド・ムール。追って、陛下から勅命が下るであろう。それでも否というのならば、相応の罰が下ることは間違いないな」
「んな、馬鹿な!」
思わずティルドは叫んだ。王陛下からの勅命に反すれば死罪か、最善でも追放である。いきなり訳の判らない話を聞かされて、いきなりこれでは納得できるものか。
「そんな話、ありますか! 突然、俺の任務範囲外の命令を与えられて、従わなきゃ死ねだって!? そんな馬鹿な話が――」
すいっと魔術師の手が上げられた。ティルドの言葉はとまる。それがローデンの魔術の仕業であるのか、自分が雰囲気の呑まれたせいなのかは、ティルド自身には判断がつかなかった。
「どう抗おうと、決まったことなのだ。私とて、お前のような少年の命を無駄に散らさせたり、街から放り出すような真似をしたい訳ではない。だがこれがお前の運命なのだ。できうる限り、手助けをしよう。旅立ちの支度をしておけ。詳しい話は――あとだ」
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